
冷房を切れば暑くて寝つけず、つければ冷えすぎて起きてしまう——。 こうした「気温と体調のせめぎ合い」が毎晩のように続くことは、精神的にも小さなストレスとなります。人間の身体は、深部体温が下がると自然に入眠しやすくなりますが、室温が高いとこの体温調節が妨げられ、睡眠の質が低下することが報告されています(Okamoto-Mizuno & Mizuno, 2012[※2] )。
夏の不眠は、単なる「睡眠の問題」ではなく、日中のパフォーマンスや感情コントロールにも大きく影響します。 海外では、「暑さとうつ症状の関連性」についての研究も進んでいます。たとえば、大規模データ解析(Obradovich et al., 2018[※3] )では、米国の200万件以上のSNS投稿と気象データを解析し、気温の上昇と抑うつ的表現の増加に明確な相関があることが示されました。これにより、猛暑や夜間の高温がメンタルヘルスに与える影響が、浮き彫りになりました。
夏バテは心バテに!?
また、米国国立精神衛生研究所(NIMH)[※4] は、季節性情動障害(Seasonal Affective Disorder, SAD)の一形態として、夏に不調を訴える「夏型SAD(Summer-pattern SAD)」の存在を明記しており、主な症状として、不眠、食欲不振、体重減少、不安などをあげています。 こうした症状は、「単なる夏バテ」として軽く見られがちですが、実際には心の健康状態のサインかもしれないのです。
しかしながら、「眠れない夜」が何日か続いただけで、すぐにメンタルに大きな影響が出るわけではありません。 けれども、それが“なんとなく不調”として積み重なると、気づいたときには心も体もすり減ってる恐れがあります。それを防ぐためには、「たかが睡眠」と軽視せず、「眠れていない自分」に気づくことが何より大切なのではないでしょうか。