山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師
山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師
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日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は日本では聞きなじみのない「酷暑と睡眠」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

【図】熱中症はどんな症状がでると要注意? 進行のステップはこちら

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 眠りが浅く、翌朝もすっきりしない——そんな夜が、最近続いています。

 アメリカでも、今年の夏は日本と同じように熱波に見舞われています。 幸い、西海岸のサンディエゴは最高気温が25〜27度ほどと、昨年よりもやや過ごしやすい日々です。

 夜は18度前後まで気温が下がるので、決して悪い環境ではありません。冷房をつけるほどではないので、夜は扇風機だけで寝ています。それでも、「ちょっと暑いな」と感じる夜は、なかなか寝つくことができません。暑さがもたらす「わずかな不快感」が、睡眠の質を確実に下げているのを実感しています。

 よく眠れなかった翌日は、どうも集中力が続きません。 朝、目覚めると、体が重く、「起きよう」という気力が湧きません。「起きなければ」と思っても、目覚ましを何度も止めてしまいます。やっとのことで起きても、頭に石が乗っているかのようで、スッキリしません。

不眠はうつ病リスク2倍

 実は、医学的にも、睡眠とメンタルヘルスの関係は深いことがわかっています。 メタ分析(Baglioni et al., 2011[※1] )によれば、不眠がある人は、うつ病を発症するリスクが約2倍に高まるとされており、睡眠の質が気分や意欲に密接に影響していることが数多くの研究で示されています。つまり、「なんとなく眠れない夜」が続くだけでも、心のコンディションには確実に揺らぎが生じてしまうというわけなのです。

 私が日本に住んでいた頃、高温多湿の夏を乗り越えるためには、夜間もクーラーが欠かせませんでした。しかし、温度を下げすぎると眠れるものの足元が冷えてしまい、逆に体調を崩してしまう。 かといって温度を上げすぎると、今度は夜中に目が覚めてしまう。 毎晩のように「今日は○○度にしてみよう」と、クーラーの設定温度と格闘していたのを覚えています。

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