
アメリカ=善、中国=悪という定式
アメリカ=善、中国=悪という命題は、もはや寸分の疑いも入る余地がない「真理」に昇華した。
先週の本コラムで指摘したとおり、選挙の結果や今後の政局の展開がどうなるかにかかわらず、外交安全保障政策については、基本的にこれまでと同じ方向性が維持されそうだ。
ということは、台湾有事=日本有事と考える多くの自民党議員とそれを肯定する多くの野党議員が、台湾有事が起きる前提で、それに備えた「戦争の準備」を着々と進めるということを意味する。
私は、台湾有事は基本的に起こらないと考えてきた。また、それを起こさないようにすることも決して難しくないことを先週の本コラムで述べた。日本が、台湾有事において参戦しないこと、在日米軍基地の使用を米軍に認めないことを宣言してこれを実行すれば、アメリカは、日本抜きでは中国に勝てないので、やむを得ず、なんとかして台湾有事を起こさないように外交努力を行わざるを得なくなる。つまり、日本に決定権があるのである。
だが、そこには私たち日本人の心の中にある高い障壁がある。すなわち前述したアメリカ=善、中国=悪という定式とアメリカに守ってもらうためにはアメリカを怒らせてはいけないという「無条件忖度の論理」である。
日本人の多くはこれを信じ込まされている。マスコミも同じ状況だから、およそこれを壊す手段が見つからない。
その結果、中国では、日米が台湾有事に備えるために行う軍事演習や、台湾へのアメリカの最新鋭武器の売却などを見て、日米が共同で台湾の独立を企てているという恐怖感が高まっている。日米と中国の間で恐怖と憎悪の拡大スパイラルが生まれ、本来はあり得なかった台湾有事が起きる可能性がある。
先週紹介したが、7月9日に始まった米空軍による日本周辺における大規模演習「レゾリュート・フォース・パシフィック」に日米やその他の同盟国から300機超の戦闘機が参加すると伝えられているが、これは明らかに中国との戦争を念頭に置いたものだ。
7月9日と10日に中国軍機が自衛隊機に異常接近したと伝えられたが、これは今回の演習に対する抗議の行動である。しかし、日本のマスコミは、単に中国側が何の理由もなく危険な行為を仕掛けてきたと伝えている。
背景を解説すれば、日米の行動が中国の反応を呼んだことがわかるのだが、それを報じないから、何も知らない日本国民はさらに中国への嫌悪感を強めるという結果を生んでいる。
こうしたことは日常茶飯事で、もはや止めようがない。それどころか、アメリカや日本の一部の保守政治家には、こうした両国間の不信拡大のスパイラルを狙っていると疑われる人たちがいる。