
死亡年齢の高齢化、葬式・墓の簡素化、家族関係の希薄化……、社会の変化とともに、死を取り巻く環境も大きく変化してきました。昨今、先祖のお墓を引っ越す「改葬」や「墓じまい」が増えている一方、無縁墓の問題も露呈しています。
この30年間、死生学の研究をしてきたシニア生活文化研究所代表理事の小谷みどりさんが、現代社会の「死」の捉え方を浮き彫りにする新刊、朝日選書『〈ひとり死〉時代の死生観』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から「お墓の変化」を抜粋してお届けします。
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多様化の裏で無縁墓が増加する問題も露呈
お墓の多様化の裏で、無縁墓が増加するという問題も露呈している。総務省が2 02 2年、公営墓地を運営する765市町村を対象に調査したところ、無縁墓が1区画以上あると回答した自治体は58・2%に上った。
熊本県人吉(ひとよし)市では、2013年に市内の全995か所の墓地を調査したところ、4割以上が無縁になっており、なかには8割以上が無縁墓になっている墓地があった。東京都では2 00 0年以降、年間管理料を5年間滞納し、親族の居場所がわからない無縁墓を撤去しているが、今後増える無縁墓対策として、撤去したお墓の遺骨を納められるよう、2012年に無縁合同墓を新たに整備した。
さらに昨今、先祖のお墓を引っ越す「改葬」が増えている。改葬の理由はさまざまだ。かつては、同じ集落に親族が住み、親戚づきあいが濃厚だったが、親族づきあいが希薄になってくると、遠くにあるお墓の掃除や管理をその地に住んでいる親族に任せていることを負担に感じ、お墓を近くに移したいと考える人もいる。遠くにあり、法事やお葬式以外は疎遠になっているお寺との付き合いをやめたいと、お墓をお寺から市営霊園などに移す人もいる。また子どもがいない、あるいは子どもはいても墓守の負担をさせたくないという理由で、継承を前提としない共同墓などに移したいという人もいる。
実際、厚生労働省「衛生行政報告例」によれば、無縁墓の撤去を除くと、2000年度には6・6万件ほどだった改葬件数は、2022年度には15万件超にまで増加している。
