
1軍にいないと成長速度が落ちる
巨人OBは懸念を口にする。
「捕手は1軍で試合に出続けないと学べないことが多い。ファームとは打者のレベルが格段に違いますしね。今の巨人は12球団屈指の『捕手王国』です。捕手は他のポジションと比べて選手寿命が長く、山瀬は24歳とまだ若手の部類に入りますが、旬な時に1軍で起用しないと成長の速度が落ちてしまう」
現役時代に捕手として3球団を渡り歩いた球界OBも、この意見に同調した上で、捕手の特殊性を語る。
「捕手は1枠しかないので、チーム事情との兼ね合いが大きい。1軍に絶対的な捕手がいると、将来性のある若手の捕手でも出場機会がないまま年齢を重ね、魅力が消えてしまう。今までにそういう捕手を何人も見てきました。昨年の岸田のように28歳で正捕手の座をつかむケースもありますが、ファームにずっといるとその環境に慣れてしまうのが怖い」
山瀬は星稜高で奥川恭伸(ヤクルト)とバッテリーを組み、2年春から4季連続で甲子園に出場、3年夏に準優勝に輝いた。2019年のドラフト5位で巨人に入団したが、同学年のドラフト1位には奥川のほか、侍ジャパンU-18代表でチームメートだった佐々木朗希(ドジャース)、宮城大弥(オリックス)、西純矢(阪神)、石川昂弥(中日)らがいる。
山瀬の大きな魅力は鉄砲肩だ。座ったまま片膝をついて二塁に矢のような送球をして話題になったこともある。リード面でもファームで実戦経験を積み重ね、成長の跡が見られる。だが、1軍の壁は厚い。佐々木がメジャーに旅立ち、宮城が球界を代表するエースとして飛躍した一方で、山瀬は1軍出場が通算15試合のみだ。12球団で最も捕手の競争が激しい巨人で、この先も出場機会を増やすのは至難だろう。
メジャーでは出場機会のない若手の放出は日常的
将来を嘱望されながら1軍で試合経験を積めない選手をどう育成するか。メジャー球団の駐日スカウトは、「日本は出場機会に恵まれない選手をもっとトレードに出すべきだと思います」と提言する。
「メジャーでは夏場以降に優勝を狙えるチームが、即戦力の選手を獲得するため、将来が嘱望される若手を放出することが日常です。若手を獲得したチームは、積極的にチャンスを与えて、来季以降に備えたチーム作りをする。山瀬の選手寿命を考えると、他球団のほうが1軍でチャンスをもらえるなら、トレードを検討してもいいと思います。こういった話をすると、『将来の正捕手なのに放出するのはもったいない』と批判の声が上がりますが、選手から見れば飼い殺しの状況になるのが一番のリスクです。山瀬を交換要員に、強打者になる可能性を秘めた選手を獲得できれば、両球団にメリットがあります」
山瀬が素材として一級品であることは間違いない。今後どのようなキャリアを歩むか、注目される。
(今川秀悟)
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