「コメ農家はかわいそう」という感情論

 政治家も、プロ農家は数では圧倒的少数なので、小規模農家と農協の方を選ぶことになる。

 農業の競争力と生産量を上げ、輸出産業として日本の成長を引っ張る産業にするためには、プロ農家をいかに育てるかが鍵なのだが、今の政治構造ではこれまでの農政を根本から変えるという発想にはならない。

 農協幹部は、今のコメの価格は高くないと胸を張った。生産コストが上がっているので、ここまで上がって何とかコストに見合う価格になり、これでやっと農業が続けられるという。それは兼業農家の声でもある。

 しかし、プロ農家の考え方は全く逆だ。生産コスト上昇分の価格転嫁は必要だが、1年で倍になるような異常事態は、逆に生産者から見ても困るという。コメ価格高騰で消費者のコメ離れに拍車がかかり、外国からの輸入圧力も高まるからだ。したがって、消費者の購買力の範囲内の値上げに留める努力をすべきだ。それでも十分に利益は出るという。

 普通の消費財の生産者なら、そんな考えは当たり前だ。しかし、農業、とりわけ、コメ農家については、そういう議論は「暴論」として叩かれる。

「私たちのために汗水垂らしてコメを作ってくれる農家に感謝すべきだ」「コメ農家は赤字生産を余儀なくされて可哀想だ」という極めて感情的な議論から始まる。メディアもこれを垂れ流すので国民が洗脳され、農協改革を主張するのは、無慈悲な新自由主義者かアメリカの回し者だという話にさえなる。

 これにつけ込んで、今、農協や農水族議員が大キャンペーンを張っている。

「進次郎が日本のコメ農家を破壊し、農協資産をアメリカに売り渡そうとしている」というバカな議論さえ広まっている。

 小泉氏が今進めていることは、恒久的な対策にはなり得なくても、農協外しのコメ流通の合理化により日本農政の根幹に手を入れるということだ。進次郎叩きは、農協と族議員たちに手を貸すのと同じだ。

 やるべきなのは、本当にやる気があり、リスクをとってでもより良いコメをより安く国民に届けようというプロ農家の声を聞いて、「消費者目線の農政大改革」を進めるための政策を与野党が競い合うということだと思うのだが、どうだろうか。

 なお、私は今から約7年半前、本コラムに「安倍政権トンデモ農政に無関心なマスコミの罪」(2017年12月4日配信)というタイトルでコメの減反と農協の問題について書いた。

 これを読めば、現在のコメ不足と価格高騰の原因は、安倍晋三政権の「エセ」農協改革にあり、今起きていることが必然だったということがわかるので参考にしてほしい。

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