阪神の不動のリードオフマン・近本(日刊スポーツ)

守備範囲は広いが肩が弱いのが玉にきず

 佐藤はプロ入り後に中堅を守った経験がない。阪神の中堅には、不動のレギュラー・近本光司がいるからだ。

 近本は新人の2019年から1番打者に定着し、広角に安打を量産した。最多安打のタイトルを1度、盗塁王は5度獲得している。リードオフマンとしての能力が球界屈指であることは間違いない。守備でも俊足を生かした守備範囲の広さと球際の強さで、21年から4年連続ゴールデングラブ賞を受賞している。

 ただ、大きな弱点がある。肩が弱いことだ。捕球してからの送球の速さと中継に入る内野手への正確な送球でカバーしてきたが、浅い守備位置でも相手球団が走者を本塁へ突入させる場面が目立つ。

「近本の肩が弱いことは今に始まったことではない。入団以来指摘されていましたが、近年は『投高打低』の傾向が球界全体で進み、強力投手陣がいる阪神は相手球団からすれば得点を奪うのが特に難しい。そのため、肩が弱い近本の前に打球が飛ぶと、相手の三塁コーチャーが回す場面が増えているように感じます」

 象徴的な場面が、首位攻防戦となった5月16日の広島戦(甲子園)だった。同点の9回2死二塁で阪神は前進守備を敷いていたが、エレフリス・モンテロが中前にはじき返すと、代走の大盛穂は二塁から本塁に生還した。近本が前にチャージできずに捕球したため、勢いをつけて送球ができなかった。

 近本は社会人・大阪ガスから2018年のドラフト1位で入団したが、藤原恭大(ロッテ)、辰己涼介(楽天)をクジで外し、「外れ外れ1位」での指名だった。アマチュア球界を取材するフリーライターが振り返る。

「近本は打撃のコンタクト能力が抜きんでていましたが、大学時代に肩肘を故障した影響があり、肩が弱かったので評価が分かれる選手でした。巨人も上位指名で考えていたみたいですが、パ・リーグ球団のスカウトは『あの肩では厳しい』と指名のリストから外していました。24歳でのプロ入りでしたが、その後の活躍を見れば、1位指名した阪神は大成功と言えるでしょう」

 阪神を取材するスポーツ紙記者はこう話す。

「将来を見据えて近本を左翼に回し、佐藤を中堅で起用する布陣が考えられます。ヘルナンデスが三塁で結果を残すことが前提の話になりますが。本拠地が広い甲子園では守備力が重要な要素になる。藤川球児監督が佐藤を外野で起用したことは興味深いです」(阪神を取材するスポーツ紙記者)

 佐藤にとっても、中堅を守れれば来年に開催されるWBCの侍ジャパン選出に向けて大きな強みになる。三塁は岡本和真(巨人)、村上宗隆(ヤクルト)が守る激戦区だが、中堅は層が薄い。岡本が内外野の複数ポジションを守れることが武器になっているように、佐藤も外野の全ポジションを守れるスキルを身に付けば、選手としての価値が上がるはずだ。

 今後の藤川監督の起用法に注目したい。 

(今川秀悟)

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