
「京大は東大より上」のヒエラルキー
「京大は東大より上」という強烈なヒエラルキーのある土地で育ちながらも、龍崎さんは東大志望を曲げなかった。東大でなければならない明確な理由があったからだ。
「京都という特異な都市空間の中で、さらに京大のあるエリアというのは要塞都市のような、そこで生活が完結する閉じたイメージがありました。それでは社会との接点が得られないと思いました」
京大にはない東大の魅力は首都・東京の真ん中にある強みだという。
「日本のトップの大学であることに加え、社会との接点が豊富にあることです。経済や政治、アカデミックの分野でも在学中に出会える人や価値観の量は全く違うと考えました。より深い学びの機会を得たいというだけでなく、その先の社会人としての生活を見据えた時に、東大という環境は日本で一番良かったと、いま振り返っても思います」
とはいえ、東大に進学した龍崎さんは、周囲の東大生とのキャリア観のギャップに直面させられることになる。
「まだ大学生ということもあり仕方ないかとは思いますが、自分の選択肢や可能性を模索する過程の人たちが多い印象で、社会に出てこういう仕事がしたいという明確なキャリア観を持つ人はほとんどおらず、それぞれ進路について葛藤している方が多い印象でした。学業優秀で聡明な方々として国内トップの東大を選択するのは当然の帰結だった、という人が多かったと思います」
東大の「進振り」は東大生マインドにマッチしている
東大生の特性として龍崎さんは「自分の選択肢を最も広げられる選択をしたい傾向」があると指摘する。例えば、後期課程の各学部・学科への進学を2年生の前半終了時に内定する東大固有の「進学選択」(通称「進振り」)も、「学部・学科選択の意思決定を先送りできる」ことが、東大生のマインドに合うシステムだと感じられるという。
ただ、東大生にはさまざまな分野で活躍できる選択肢があるにもかかわらず、結局似たようなキャリアに収斂していくイメージもある、と龍崎さんは吐露する。
「頭もいいし、体力もあるし、精神力も忍耐力も備えた優秀な人ばかりなんですけど、そういった人たちが、みんながみんな外銀(外資系投資銀行)や戦コン(戦略コンサルタント)をはじめとした一流企業に行かなくてもいいのに、とは思います。その人にしかできないことだったり、東大出身者があまりいない業界に1人で飛び込んだりする人が増えれば、日本はもっと面白くなるのに、とずっと感じてきました」