
では、そうした背景には何があるのか。大学も就職先も「自身を『品質保証』してくれるブランドの器」に入って安心を得たい心理があるのでは、と龍崎さんは推しはかる。
「選択肢を最も広げる選択肢」を皆が選ぶことで結果的に同じようなキャリアに進み、かえって選択の幅を狭めてしまっている。そんな矛盾が東大生の傾向として浮かぶというのだ。
「自分が主体的にやりたいこと」の評価軸と、収入や社会的地位といった「職業威信度の高いキャリア」が重なるのは東大生に限らない。社会的な承認欲求は誰にもある。だが東大生の場合、その気になればハイキャリアを選択できることも相まって、「自分が本当にやりたいこと」と「世間に期待されていること」を混同しやすくなる傾向が強まる面はあるのかもしれない。
レールを外れられない東大生
さらに、龍崎さんは「東大生どうしの競争心」が無意識下に働くことも影響していると指摘する。
「東大生の仲間どうしで比較したり競争し合ったりすることから逃れられないがゆえに、レールを外れられない人が多いのではないか、とも推察しています」
そんなマインドの東大生に囲まれた環境で、「他の人があまり選ばない、新陳代謝が生まれづらい業界で、自分にしかできない仕事をしてぶちかませたら面白い」と考えていた龍崎さんは異端そのものだった。大学2年の19歳で休学して起業し、北海道・富良野でペンション経営を始めた時も、周囲のごく一部にしか伝えなかったという。
「当時は周囲から浮くような行動をすると、『意識高いね』という言い方で揶揄される風潮がありました。起業しても失敗するかもしれないし、周囲に宣言する必要もないと考えていました」
ホテル経営を始めると、学外の年長者からは「東大ならもっといい就職先があるだろうに」と不思議がられることも多かった。東大生は官僚や大手商社・金融といった「いい就職先」を目指せるのにもったいない、という世間の「常識」はそのまま多くの東大生にも刷り込まれていた。だが、そんな流れに身を任せていれば、既成概念にとらわれない龍崎さんの革新的なビジネスアイデアは生まれなかった、といっても過言ではないだろう。
(構成/編集部・渡辺 豪)
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