山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師
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 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「百日咳感染者過去最多の理由」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

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 激しい咳が続くことで知られている「百日咳」。2025年4月現在、日本では百日咳の流行と感染の拡大が続いています。25年の第15週(4月7日~13日)では、全国で1,222件の報告があり、3週連続で百日咳の感染者数は過去最多を更新し、累計感染者数は7,084人[※1] に達しました。すでに、24年の年間報告数である4,054人を上回っているのです。しかし、今年の感染傾向はこれまでとは少し違っているようです。

 そもそも百日咳とは、痙攣性咳嗽(けんれんせいがいそう)と呼ばれる激しい咳が特徴の感染症です。鼻水や軽い咳、くしゃみ、軽い発熱といった風邪やインフルエンザと似た症状から始まります。2週間が経過することになると、咳が次第に激しくなります。特に夜間や寝る前にひどくなり、激しい咳き込みにより嘔吐してしまうなんてこともあります。咳は次第に軽くなり、一般的には6週間から8週間ほどで回復しますが、場合によっては咳が長引いてしまうこともあります。

 では、どのようにして感染するのでしょうか。百日咳は、百日咳に感染している人の咳やくしゃみに含まれる百日咳菌を吸い込むことによって感染します。発症前の約1週間から症状が現れてからの約2週間が、最も感染力が強い期間といわれています。このように、百日咳は非常に伝染力が強く、感染者が症状を示す前から他の人に感染を広げてしまう疾患です。

 さらに、百日咳菌に対する免疫を持たない乳幼児や免疫力が低下している高齢者が感染すると、症状の重篤化や、肺炎や脳炎、痙攣といった合併症を併発するリスクがあります。そのため、百日咳の感染予防、そして感染の拡大を防ぐためには、ワクチン接種が非常に重要になるのです。

 現在、日本における百日咳ワクチンは乳幼児期に定期接種として初回接種が計3回おこなわれます。そして、6歳前後に4回目の追加接種(定期接種)が行われています。追加接種により、幼児期に得られた免疫を強化するのが目的です。

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