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 中学生(11歳〜12歳)に対しては、さらにジフテリアと破傷風を予防する二種混合ワクチン(DT)が定期接種として行われているものの、百日咳は含まれていません。乳幼児期の初回接種で百日咳に対する免疫は形成され、その後の追加接種で免疫が維持されることから、11歳〜12歳の時点では、百日咳に対する免疫は依然として高いと考えられているからです。

 後ほど詳しく説明しますが、​百日咳の免疫は時間の経過とともに低下してしまいます。そこで、成人期において、三種混合ワクチン(Tdap:百日咳・ジフテリア・破傷風)の追加接種が任意接種(接種費用は自己負担)として推奨されているのです。

今年の百日咳の感染状況

 では、今年の百日咳の感染状況に話を戻しましょう。

 国立健康危機管理研究機構[※2] によると、これまで感染の中心だった0~4歳の乳幼児は、2025年の感染者の約10%以下と感染の割合は大きく減少しています。一方、2025年の感染者の約60%は、10~19歳の若年層であり、ついで約21.0%が5~9歳を占めています。前年までと比して10~19歳が大きく増加していているのです。

 百日咳における感染者の年齢層の変化には、いろいろな要因が考えられます。これまで感染の中心だった乳幼児の感染が減った要因の一つは、免疫が未発達な乳幼児への定期的なワクチン接種とその予防接種率の向上でしょう。免疫の早期獲得と集団免疫の強化により、百日咳に感染する機会が減り、0~4歳の乳幼児の感染率が大幅に減少したと考えられます。

 では、25年の百日咳感染者の6割を10~19歳の若年層が占めているはなぜなのでしょうか? 一つ目は、百日咳に対する免疫の減衰です。減衰とは、私たちの体が病気に対して持っている防御力(免疫力)が、時間の経過とともに弱まってしまうことを意味します。百日咳ワクチンによって得た免疫は、ワクチン接種後の免疫記憶や抗体の減少、年齢による免疫システムの老化により、時間と共に体内の免疫が低下してしまうのです。ワクチンによっては、免疫を一度獲得すると免疫が長期間続くものもありますが、百日咳に対する免疫は減衰してしまうため、定期的な追加接種が免疫を維持するために重要となってくるのです。

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