トラブルの可能性

 部活動指導員が活動するうえで、最も大きな課題は、いまだに「責任の所在があいまい」ということだろう。

「トラブルになる可能性は高いと思います」

 そう語るのは高校教員OBで、東京都の部活動指導員を務めるナオキさん(仮名、60代)だ。

 顧問は必ずしもその部活動の経験があるわけではない。経験や指導力の不足を負い目に感じる顧問もいる。一方、部活動指導員には「専門家」としての自負がある。そのため、部活動指導員と顧問・担当教員の意見が食い違い、部活動の運営方針が一致しないことは「珍しくない」と、ナオキさんは言う。

顧問と対立しかねない

「学校運動部活動指導者の実態に関する調査」(21年、日本スポーツ協会)よると、高校が「部活動指導員に依頼する際の課題」として、最も多かったのは「顧問教員と連携した指導体制の構築」(64%、複数回答)だった。部活動指導員に依頼するにあたり、学校が最も重視したのは「顧問教員等と良好なコミュニケーションをとれること」(76.4%、同)だ。

「野球やサッカーで、プロスポーツや社会人チームなどの一線を退いた方が部活動指導員になると、競技への思い入れが強いだけに『勝つ』ことを重視する人が少なくないと聞きます。練習で生徒がけがをしたり、熱中症になるような事故が起こったもしもの場合に、顧問と部活動指導員の連携がとれていなければ、責任をめぐって双方が対立しかねない」(ナオキさん)

もしも訴訟になったら

 都立高校教員のトオルさん(仮名、60代)は、部活動指導員に来てもらうのは、教員の負担を減らす観点から、「歓迎」だと言う。

「経験のない種目の顧問を強要されることは、教員にとっては『災難』です。苦しむ人を大勢見てきました。部活動指導員が入ることで、教員の激務が少しでも軽減されれば」(トオルさん)

 ただし、不安はある。

「もし、部活動指導員が単独で部活動に立ち会っていた際に事故が起こったら、学校の責任が追及されるだけでなく、『なぜ顧問はいなかったのか』と言う保護者が出てくるのでは。訴訟になり、顧問が追及される事態は十分起こりうると思います」(同)

 都が部活動指導員制度を開始してから5年がたつ。いまだにその職務が保護者には十分に理解されていないと、トオルさんは感じている。

「説明不足が原因だと思います。学校の管理職が部活動指導員の職務を文書で保護者に伝えてほしい。『部活動に関する全ての権限は部活動指導員にあります』くらい書かないと、保護者には伝わらないでしょう」(同)

(AERA編集部・米倉昭仁)

[AERA最新号はこちら]