ストレスやプレッシャーから逃れられる
シリンジ法の手順は、①マスターベーションで射精した精液を容器に入れ、シリンジを使って吸い上げる ②それを膣内に注入する――という、ごくシンプルな流れだ。
夫から精液の入った容器を受け取り、タンポンを入れる要領で、自分で注入することもあれば、夫に入れてもらうこともある。性交渉と比べると、あまりに淡々とした手順に最初は複雑な気持ちもあったが、2回、3回と試すごとに「なんてラクなんだ」という気持ちが勝った。
「本来のセックスは、お互いが楽しんでできるのが理想だと思うけど、いざ妊活とかタイミング法とかになると、“作業”になってくるんですよね。結果、うまくいかない日が続いたりする。加えて、“確率が高い時に成功させないと”というのが、お互いにプレッシャーになる時もある。シリンジ法は、そんなストレスやプレッシャーから逃れられる手段でもあると思いました」
女性は期間を決めてシリンジ法とタイミング法を並行して試し、妊娠しなかったら不妊治療に進めようと考えている。
まさかここまで売れるとは
「まさかここまで売れるとは、というのが正直な感想です」
こう話すのは、国内のシリンジ法キットの先駆けで、2016年の発売当初からシェア数トップを誇る「プレメントシリンジ」の片桐萌さん(オンリースタイル)だ。同社のシリンジは、16年の発売から累計250万本を販売し、ピーク時にはひと月で約2千万円を売り上げた。
好調な市場に目をつけ、ここ数年で競合メーカーが次々と参入したこともあり、現在の同社の売り上げはひと月で約1千万円。発売当初から、「性交渉に頼らない妊活法には確実に需要がある」という確信はあったが、発売後数年は、シリンジ法の存在が認知されるまでのハードルの高さも感じていた。
「多くの企業が参入し、妊活中のお客様には認知されるようになってきました。商品の選択肢が増え、より手に取りやすくなっていると思います」(片桐さん)
家で人工授精ができたらいいのに
同社の製品「おうち妊活シリンジ法キット」の利用者の中心世代は30代だ。
商品開発のきっかけは、「家で手軽に人工授精的なものができたらいいのに」とこぼした同社社長の知人の一言だった。「性交渉が苦手だが、妊娠はしたい」「自宅で性交渉に代わって妊活できる手段があれば」という需要が存在すると考え、一般医療機器として独自に商品を開発。痛みを感じやすい人でも使用しやすいよう、サイズや質感にこだわった。
「シリンジ法キットを使う=性行為をせずに妊活するということでもあり、“性行為はしたくないが妊娠はしたい”という層が一定数いることを実感しています」(同)