
父親世代の50代男性に
中でも決定的だったのが、父親世代の50代男性に「お尻触ってもいい?」と言われたこと。相手は社内で二人きりになった状態を見計らって言い寄ってきた。
女性はたまらず信頼できる男性の上司に相談し、匿名で内部通報をした。
その後、聞き込み調査が入り、言質が取れたことで該当する男性は異動となった。その男性は過去にもセクハラで通報されていたことを後になって知った。
「私は人の話を素直に聞いてしまうタイプです。相手が悪いのに、自分も悪いのだろうか、と思ってしまいます。相談した上司も男性なので、言いづらかったですし……」
性別や年齢に関係なく一人の人間として評価してくれる人ももちろんいます、と女性は続ける。だが、「業務を遂行する上で、根本的に女性を下に見ている人は少なくないです。今の会社では特に、50~60代男性にその傾向があります」とこぼす。
「他社に勤務する理系の女友達からも同じような悩みは聞きます。彼女たちには、『自分は悪くない』と認めてほしいと伝えたいです」
『教育にひそむジェンダー』の著者で、東京大学多様性包摂共創センターの中野円佳さんは、「いくら社内や組織内でハラスメント研修を受けても、その本質を理解していないと、ふとした瞬間の言動に出てしまうと思います」と指摘する。
「たとえば、『こんなこと言ったら、セクハラになっちゃうかな~』と、これはセクハラではないからね、と前置きした上でそうした発言をする。セクハラという言葉が浸透したがゆえに、エクスキューズと一緒に述べられる感じです」
“男子校カルチャー”
なぜそうした乖離が生まれるのだろうか。
その背景には、性別、年代など同じ性質が集まる“男子校カルチャー”の価値観をアップデートする機会がなく、それを誰からも指摘されない、そのため、社会の変化自体にも気づいていないことが挙げられると中野さんは言う。
「中には下ネタが好きではない男性もいるはずなのに、何となく下ネタでコミュニケーションを取るほうが優勢で、そのままの状態になっている。その名残だろうと思います」
女性の中にはセクハラを受けた際に軽く受け流したり、自分を下げて笑いを取ったりする人もいる。「それを『本人が笑っているから大丈夫』と、先輩や上司がいじることは、ハラスメントだと認識されないこともあると思います」(中野さん)