オフィスや社内の飲み会に潜むセクハラ。笑ってやり過ごしたのは、肯定ではない。そうするしかなかった、と話す被害者は多い(撮影/写真映像部・松永卓也)
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 職場でセクハラを受けた人のうち、半数以上がそのあと何も行動を起こしていないという調査結果がある。その場では軽く受け流し、誰にも相談せず嫌な記憶は早く忘れようとするが、時間が経ってもその傷は癒えることはない。AERA 2025年4月28日号より。

【図表を見る】セクハラを受けた後、半数以上の人の行動は

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「セクハラ防止のための配慮義務」が法制化したのは1997年だ。その頃、公務員として働いていた埼玉県在住の自営業女性(47)の職場では、まだ「セクハラ」という言葉は浸透しておらず、ハラスメントに関する内部通報の体制も整っていなかったという。

「嫌な出来事は、記憶から消していっているのであまり覚えてないのですが……」と前置きした上で、忘れられないエピソードを話してくれた。

「当時40代の男性職員から他の人がいる前で、胸がないことを茶化されました」

また、別の課の男性に相談事をしたら好意があると勘違いされたこともあった。対等に考えてもらえないことにやるせなさを覚えたと振り返る。

法制化から30年近くが経つ今も、容姿を揶揄されたという。

「50代前半とおぼしき男性から胸に関する不快なことを言われました。その時は笑ってやり過ごすしかなくて。言い返すことが本当は大事だと思うので、それができない自分が後ろめたいです」

令和5年度の「職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要」によると、セクハラを受けた後の行動において、503人中の半数以上が「何もしなかった」と回答をしている。

そんな中、最近ではハラスメント研修を実施している企業は大手を中心に増加していて、その中で、内部通報窓口を設置しているケースもある。

「勤務先には365日通報できる制度があります。入社当初は『使わないだろう』と思っていたのですが、セクハラの当事者になり、使いました」

そう打ち明けるのは、関西在住の研究職の20代女性だ。配属された部では紅一点で、周りは50代前後の男性が多い職場環境だ。アラサーになった頃からは「結婚しないのは何か理由があるから?」「体重何キロ?」など、完全に“アウト”の質問が日常会話でなされているという。そうした質問には「(結婚する時は)自分から言うので」とかわす日々だ。

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