男尊女卑と関連付けられやすい「九州男児」だが、○○男児という言葉は全国にあった。時代は日清戦争のころまで遡る。勇敢に戦地に赴く日本男児──といったぐあいに、「日本男児」という言葉が雑誌などに登場した。「○○地方の男性」という意味で、鎌倉男児、東京男児、関東男児、奥州男児という言葉が派生した。「九州男児」もその一つだ。終戦とともに各地の「○○男児」はすたれていったが、九州男児は残った。
「古事記や日本書紀の熊襲や隼人のイメージや、小説やドラマで描かれた薩摩藩士や西郷隆盛像が、九州男児として定着したのではないか」(駒走教授)
「男のメンツとは」
「九州男児だと威張っていても、財布のひもを握っているのは妻です。女性は尽くしているように見えるかもしれませんが、男性は手のひらの上で転がされているんですよ」
こう話すのは、大分県で育ち、関西で働く女性(54)だ。
20年前、鹿児島県に住む友人が妊娠中、夫とスーパーに買い物に行った。夏の盛り、友人が買い物袋を持って歩いたが、人目に付かない駐車場に差し掛かると、夫が黙って買い物袋を持った。
「九州男児だから、人前で妻に優しくするのは恥ずかしいけれど、本当は優しいんだな、と友人は思ったそうです。九州の女性は強いから、うまく立ち回って夫の首根っこをつかんでいるのでは」(女性)
男性のメンツを立てつつ、主導権は女性が握る。この話に関西学院大学の三輪敦子教授(ジェンダー)は言う。
「生存戦略として、女性が男尊女卑を内面化し受け入れている状況があるのではないか。女性は夫への従属を選ぶことで夫からの愛情を勝ち取り、一方で夫を操作して、自らの地位の安定を手に入れようとする。海外の研究者は『家父長制バーゲニング』と呼んでいます。結果として女性は無意識であるとしても男尊女卑な状況を自ら選択し、その再生産に加担している側面があるのではないか」
そのとおりだ。炎天下、妊婦に荷物を持たせて成り立つ「男のメンツ」など、ロクなものではないはずだ。
わが家は共働き夫婦だ。洗濯は夫と分担しているが、洗面所のハンドタオルを洗濯機に入れるのはいつも私だ。だけど、夫の方が収入が高いから仕方ない。そう考えていた自分に気づき、胸がざわりとした。(編集部・井上有紀子)
※AERA 2025年4月14日号