坂本と2000本安打達成記念のモニュメント(2020年11月)

「動体視力の衰えで打率が一気に落ちた」

 三塁の守備で見せる速い打球への反応速度やフットワークを見ると、肉体的な衰えは感じられない。では、なぜ打撃で昨年から衰えが見えるのか。首位打者の経験があるパ・リーグOBは「動体視力の衰えがあるかもしれません」と懸念を口にする。

「動体視力は35歳を過ぎたあたりから落ちてきます。捉えたと思った打球が内野ゴロやファウルになる。僕も経験しましたが、ミート能力だけでなく選球眼が悪くなるんですよね。ストライクゾーンにズレが出てきて、ボール球を振るようになり打率が一気に落ちました。止まっているものを見る視力はコンタクトレンズや眼鏡を着用することでカバーできますが、動体視力は全く別です。150キロを超える球や鋭い変化球に対して目で追えなくなると、技術を生かすのが難しくなります」

 坂本は現在36歳。16年に打率.344をマークし、セ・リーグの遊撃手で初となる首位打者を獲得し、20年には右打者で最年少の31歳10カ月で通算2000安打を達成。当時はこの後もレギュラーとして試合に出続ければ、張本勲氏に続くNPB史上2人目の通算3000安打達成も可能だと期待された。しかし、その後はペースが落ちている。昨年までに積み上げた安打数は現役選手最多の2415本。昨年の安打数は94本。試合に出続けることができれば今シーズン中の2500安打は十分到達可能だが、今の状態が続けば微妙な数字だ。

グラウンド外での申告漏れへも批判

 今年はグラウンド外の出来事でもフォーカスされた。坂本が東京国税局の税務調査を受け、2022年までの3年間で約2億4000万円の申告漏れを指摘されたことが4月2日に報じられた。料亭やクラブでの飲食代などを必要経費に含めて計上していたが、国税局は「収入を得るために直接必要」な支出にあたらないと約2億4千万円について申告漏れと指摘したという。悪質ではないため重加算税は課されず、追徴税額の約1億円を修正申告したというが、試合での不振が続くだけに、「どれだけ料亭やクラブで飲み食いしているのか」と批判を浴びることにもなった。

 坂本は野球人生の岐路を迎えていると言ってよいだろう。巨人を取材するスポーツ紙記者はこう語る。

「僕らマスコミを含めて周りは通算2500安打、あと5本に迫った通算300本塁打など記録達成を注目しますが、本人は数字に関心を示さないんです。遊撃の定位置をつかんだ19歳から『チームの勝利に貢献する選手になる』という信念がぶれない。スタメンで試合に出続ける力がなくなったと感じたら、現役にしがみつくタイプではないので、自ら幕を引くかもしれません。もちろん復活してほしいですよ。シーズンは長いですし、坂本が活躍すればチームが活気づきますから」

 今年で37歳を迎える「88年世代」は坂本のほかにも、田中将大、柳田悠岐(ソフトバンク)、秋山翔吾(広島)、宮崎敏郎(DeNA)、大野雄大(中日)、澤村拓一(ロッテ)、前田健太(タイガース)などタレントの宝庫だ。その中で坂本は世代のトップランナーの1人として走り続けてきた。もう一花咲かせた姿を見せてほしい。

(今川秀悟)

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