高校日本代表にともに選ばれた大阪桐蔭・根尾(右)と金足農・吉田輝星(2018年8月)

「彼の良さが消えている」

 だが、根尾を大阪桐蔭高校時代から取材しているライターはこう指摘する。

「高校時代の根尾は投打の二刀流で活躍していましたが、投手・根尾は決して制球力が良いわけではなかった。彼の強みは独特の回転の直球でした。177センチと上背はないですが、対戦した打者は『きれいな回転の直球ではなく、カット系でクセがあるんですよね。ジャイロのように浮き上がってくる時もありました。ああいう球は見たことがないし、打ちにくい』と話していました。制球力が武器の村上とは投手のタイプが違いますし、直球の球質が異なります。先発に転向後は彼の良さが消えているように感じました」

 根尾に関しては同情的な見方がある。2018年のドラフトで4球団が1位指名で競合した末に中日に入団。当初は遊撃を守り、2年目は外野にコンバート。4年目の22年に投手へ転向し、さらに先発から中継ぎへと役割が変わった。こんなにポジションが変わる選手は珍しい。球団の育成方針に疑問符を投げかける声が聞かれるが、中日OBは違った考えを示す。

「シビアな言い方になりますが、あのまま野手でプレーを続けていてもレギュラーをつかむのは厳しかったと思います。投手に転向後もチャンスはありました。中日の先発ローテが確定といえるのはエース・高橋宏斗のみ。20代の先発投手がなかなか一本立ちできず、他球団に比べてハイレベルな争いとは言えないなかで、根尾は結果を残せなかった。今年から救援に回りましたが、高卒7年目という状況を考えるとラストチャンスでしょう」

 低迷期が続いている中日だが、育成能力は決して低いわけではない。現役ドラフトで移籍して大ブレークした細川成也や22年に最多安打のタイトルを獲得した岡林勇希を筆頭に、野手では村松開人、福永裕基、投手では松山晋也、清水達也らが主力選手に成長していった。

移籍で躍進した吉田や水谷は同学年

「根尾は伸び悩んでいますが、能力の高さを評価している他球団があると聞いています。今年もこのままファーム暮らしが続くようだと、トレードや現役ドラフトでの移籍が現実味を帯びてくる」(前出のスポーツ紙記者)

 移籍が野球人生の大きな転機になることがある。根尾と同学年で、3年夏の甲子園で金足農のエースとして「金農旋風」を巻き起こした吉田輝星は、日本ハムにドラフト1位で入団したが伸び悩み、23年オフにオリックスへ移籍。移籍初年度の昨年は50試合登板で4勝0敗14ホールド、防御率3.32の好成績で存在感を示した。やはり同学年の水谷瞬も、ソフトバンクでは1軍出場なしに終わったが、23年オフに日本ハムに移籍すると覚醒。昨年の交流戦では史上最高打率.438を記録してMVPを受賞した。

 同世代の根尾も、なにかをきっかけに飛躍することができるだろうか。

(今川秀悟)

[AERA最新号はこちら]