「家族」の結びつきとは

 本作に登場する長谷川家の父娘は「半紙が7、8枚挟まっているぐらいの距離感」だ。

「このお父さんは妻のことが大好きで、娘のことも心から愛している。父親として、娘の人生に関わりたいとずっと思っているんだけど、しようとすればするほど、煙たがられてしまう。世の中に山ほどある父と娘の構造だと思います」

「そこに、娘にとって人生初となる中学受験という試練が訪れる。父親として、娘の希望は叶えてあげたいけど、その願いが叶ってしまえば家族は離ればなれになってしまう。それはこのお父さんがもっとも望んでいない未来です。そんな葛藤を乗り越える父親の姿と、少しずつ心を通わせていく娘を描きたかったんですよね」

 そんな父娘をみつめる母親もまた物語のキーマンだ。母親も、自分の母親(娘から見たら祖母)との折り合いに悩んでいる。早見さんによれば、「祖母・母・娘の親子3代の関係性」はもう一つの裏テーマだったという。

母 「『お前は何が不満なんだ』って、私もしょっちゅう(おばあちゃんから)言われてた」

娘 「それ、私がお母さんによく言われてることじゃん」

 マトリョーシカ人形のように、そっくりな姿で連綿と続く親子。手探りで、互いを思い合いながら奮闘する姿をみていると、副題にある通り「理想の家族って何だろう」と考えさせられる。

「悩んで自問自答することは自分に刃を向けることと同義」(写真 佐藤創紀/朝日新聞出版写真映像部)
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