
中学受験にともに奮闘する親子の心情をリアルに描き出した『問題。以下の文章を読んで、家族の幸せの形を答えなさい』が話題だ。
主人公の長谷川十和は、小学校6年生の女の子。楽しい母、優しい父、可愛い妹……。「絵に描いたような幸せな家庭」で暮らしながら、なぜこれほどまでに心が荒むのか。頑張りたいのにスイッチが入らない、ヒリヒリとしたもどかしさ。
作者・早見和真が最も描きたかったものとは? 作家として世に問いたいテーマとは? 話を聞いた。
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ずっと描きたかった「父と娘」の物語
作者の早見和真さん自身、中学3年生の娘を持つ父親だ。
「デビューした頃から、父と娘の小説を書きたいと思っていたんです。父と息子、母と娘の物語は多いけれど、父と娘の物語って少ない気がしていて」
書きたいと思いつつ書けずに時間が過ぎ、やがて自身も結婚して娘が生まれた。
「娘という存在ができて、やっと少しわかったんです。父と娘って、思っていたほど物語がないぞって(笑)」
作中の、長谷川家の父娘は、ともに中学受験に立ち向かうことで関係性が変わってゆく。では早見家の父と娘もそうだったのだろうか?
「僕と娘は、彼女が生まれてからもうすぐ高校生になる今日まで、たぶん仲はいい方だと思うんです。だけど、ずっとこう、親子の間に半紙一枚挟まっている感じが拭えなくて」
対して、妻と娘はより密接だという。本音をぶつけ合い、喧嘩をし、互いに不満を抱き合っている。そして早見さんのお嬢さんも中学校を受験した。そのときの経験が本作の誕生を後押しした。
「12歳で、彼女は生まれて初めてのわけのわからない、中学受験という理不尽なバケモノに挑戦しなくちゃならなくなった。それまでずっと、お互いに向き合う形で生きてきた僕ら父娘が初めて共通の敵を迎えて、同じ方を向いたという気がしました。その時に『あ、これは家族にならざるを得ない瞬間だぞ』って思ったんですよね。この瞬間を物語として切り取りたいなって」