都内で中学受験塾「應修会」を主宰する茂山起龍(きりゅう)さんは、受験後も教え子たちと交流を続けるなかで、生徒たちの“その後”を見つめ続けています。AERA with Kids+の連載「中学受験、その先に」。最終回は、中学受験に向かう子どもたちを14年指導してきた茂山さん自身が思う「中学受験の意義」について、つづってもらいました。
【体験記マンガ】「学校に行くのが当たり前」と思っていた日常が一変…小6の2学期で不登校になった息子の中学受験 (全39枚)中学受験を「してよかった」「させてよかった」
私は「しなくてもよいもの」である中学受験を経験し、それを仕事としていて、我が子にも経験をさせた。私自身はしなくてもよいそれを「してよかった」と現時点では思っている。卒業後、顔を見せてくれる卒業生のことを考えても「いいものだな」と感じるし、我が子を見ても「させてよかった」と考えている。ただし、卒業生や我が子がどう思っているのか、他人である私に本当のところは分かりようがないが、過去一人だけ僕自身に「先生は僕が中学受験をしてよかったと思っていますか」と問われたことがあることを思い出した。
その子は卒業してずいぶん経った子で、私と話をしに教室にふらっとやってきた。あまり明るい顔はしておらず、「何かあった?」と聞くとおもむろにぽつりぽつりと話し始めた。
具体的な話はここで明かすわけにはいかないが、つまり、はっきりとした何かがあったわけではないようだが、いわゆる「充実した楽しい中高生活」を送れたわけではなかったようだ。楽しいことがなかったわけでもないが、つらいことが多かったと言う。日々いろいろうまくいかず、悩んでいたようだ。「なんで言いにこなかったの?」と聞くと「なかなか言い出せなかった」と。そんな子に「それでも僕はしてよかったと思いますか」と問われた。数年ぶりにその子から「質問」をされて私は返答に困った。相当悩んだうえで「答え」を私に聞きに来たわけだ。「そんなの分からないよ」と突っぱねるわけにはいかない……。
「僕が中学受験をしてよかったと思っていますか」への答えは…
私はその子にこう伝えた。
次のページへ中学受験はしたほうがいいのか?