うちだ・りんたろう/詩人・絵詞作家。1941年、福岡県生まれ。『詩303P』などの絵本や詩集『ぼくたちはなく』など多くの著作がある(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 数々の傑作を世に送り出してきた絵本作家・内田麟太郎さん、84歳。新作に込めた創作の意図を聞いた。 AERA2025年3月31日号より。

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『さかさまライオン』『うそつきのつき』など多くの名作絵本で知られる内田麟太郎さん。新作『あのね あのね』は、ダンゴムシやバッタなどの虫たちが親切にしてくれたアリに感謝の気持ちを言おうとするが、なかなかうまくいかず……という姿をあたたかい目線で描いたもの。自分の気持ちをうまく伝えられない子どもたちへの想いも込められているという。

いたってのんびり屋

 なぜ、そんな絵本を書いたのか。内田さんには発達障害を持つ孫(現在30歳)がいる。「人とのコミュニケーションが苦手みたい」と気づいたのは小学校高学年の頃。友だちともめて学校のトイレに閉じこもったり、大学卒業後には就職した会社を辞めてしまったりさまざまなことがあったが、家族は特別な対応をするわけでもなく、「いたってのんびり屋」だったと話す。

「人生に挫折や失敗はつきもの。それを『しのいでいける』最低限の力と、その存在を包んでくれる人がいる状態さえあれば、人は生きていける。だから心配したことはないんです。この子は大丈夫、と」

『あのね あのね』で印象的なのは、「おれいのことばが いえないの」「もじ もじ いえないの」といった虫たちの言葉の響きのやわらかさ、やさしさだ。

「大切なのは、親の膝の上で聞いているような、子どもが情緒的に安心できる状態になれるような言葉であること。そこから、子どもがゆっくりでもいいからしゃべることができるように、持っていってあげればいい」

 そんな言葉をつむぐために、内田さんが最初にすること。それは自分の緊張を外し、楽にしていくことだという。

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