
「絵本を展開していくための言葉が『来てくれる』のを待つ状態に、まずは自分を持っていく。すると自然に流れてくる『もじ もじ』みたいな言葉の中に自分を置けるようになる。『書けそうだ』と思う瞬間です。そしたらそれを書き留めていく。親が膝の上の子に『あのね あのね』と語りかけるように始まる物語へと、やわらかな言葉が私を運んでいってくれるんです」
お笑い芸人が絵を担当
今回、絵を担当したのは昨年『だんごむしまつり』で絵本作家デビューした吉本興業のお笑い芸人、山崎おしるこさん。初めて組む相手でもあり、最初は心配もあったという内田さん。「想像以上に良かった」と喜ぶ。
「雲の色の柔らかさ。タンポポの綿毛にアリさんがつかまって登場するといった演出の力。それができる方だし、子どもが入り込みやすい世界を持っておられる。絵本作家に向いているなあと感じました」
これまで、背景として象牙の乱獲問題を描いた『きこえないこえ』や、現代の戦争を書いた『ひとのなみだ』などの作品もある内田さん。一方で「あまりメッセージ性の強い本は書きたくないんです」と言う。「『あのね あのね』も、発達障害のお子さんとその親にしか通じない本にはしたくない。すべての親と子どもが、読んでもらって嬉しく、ゆったりした気持ちになれる。そうあってほしい」とも。
「何かテーマがあるにしても、メッセージを伝えるために『上手に書く』のは違うかなと。そのときにも『自分』というものを手放さず、必ず自分がどこかにいて、自分が日頃思っていたことが入っている。そういう絵本が書きたいですね」
そう話した後、「ちょっとかっこよすぎた?」と照れる内田さん。その微笑みのやわらかさとやさしさ。内田さんの絵本の世界そのもののように感じた。
(編集部・小長光哲郎)

※AERA 2025年3月31日号