
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。
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先週号で、今年も花粉症の症状が出てきたことをご報告いたしました。あれから少しずつ悪化し、案の定、腸内環境を整えるサプリだけではしのげなくなり、現在は市販薬を服用しています。眠気などの副作用もなく、薬が効いている限りは快適に過ごしています。
一方、少し前に本連載で記した新しいスマートフォンは、データ移行と大量のアプリログインという難所を通過したあと、こちらもすこぶる快適に動いています。それまでの騙し騙しはなんだったのか?というほどに。当然バッテリーのもちもよくなって、外出先でオロオロすることがなくなりました。
このふたつの出来事から、私は往生際が悪く、面倒くさがりで、且つ自己流でなんとか解決しようとトライするのが好きなのだということがわかります。
問題にすぐに取り掛かるのが苦手というような、生易しいものではありません。今回改めてハッキリと、私は手をこまねくのが好きだと自覚しました。そういう人、意外と少なくないのではないでしょうか。いつまで経っても効率主義に舵が切れないタイプ。

タイパだコスパだと、とにかく「損をしない」ことが重要視される時代です。そっちのほうが圧倒的に賢いとされています。私は首肯しかねますが、それは「損を回避することで発生する損もある」というような含蓄のある話ではなく、いや、それも一理ありますが、損をしないための新たな決断が面倒なのに加え、のちに「損」に仕分けされかねない工夫のあれこれがやめられないからです。要は、その場しのぎが好きなんです。
これは昔からで、壊れかけの生活用品を、安価にもかかわらず買い替えずに「こうすればまだ使える」と無駄に抵抗してみたり、キッチン用品を敢えて風呂場で使ってみたりといった行動に表れています。思い返してみると、一人暮らしを始めたあたりからずっとそうです。ものを大切に扱うのとは、また別の嗜好。
いつまで経ってもやめられないことは、好きなこと。楽しいから意思を持って続けている。そう考えるようになってから、自責の念はだいぶ減りました。好きなことをやっているのだから、これでヨシ。
まったく好きではない! と腹の底から思ったら、やめることを真剣に考えれば良いのです。私はしばらく、趣味としての試行錯誤を続けます。
※AERA 2025年3月24日号

