
22年9月に静岡県を襲った台風15号に関連し、静岡県内で住宅が水没したとするフェイク画像が生成AIでつくられSNSで拡散した。堀さんは、この画像を制作した男性に話を聞いた。すると、男性は情報を川上でコントロールする「万能感」のようなものを持っていたと言う。
「しかしデマが広がった結果、本当の被害が知られにくくなり、支援やケアが必要な人に届かなくなります」
およそ100年前の1923年に起きた関東大震災では、デマによって多くの人が殺されたとも指摘する。
大切にしているのが、「大きな主語より小さな主語」。「国は」「日本は」「男は」「女は」。そうした規模感の大きな主語は、便利だがデマが起き、分断を生じさせることにもなる。重要なのは、一人一人の固有名詞で伝える小さな主語。事件や災害の現場に足を運び、当事者の話を聞き、「◯◯県◯◯町で商店を営んでいた◯◯さん」とここまで落とし込んで発信することがデマを打ち消す力になる、という。
市民メディアを立ち上げて十余年。20代、30代の後輩も育ってきた。
「僕なんかよりもデジタル機器に詳しくて」と笑う。
それでも愛用のカメラを手に現場に向かう。「本当のSOS」を埋もれさせないために、「声なき声」を聞くために。
(編集部・野村昌二)
※AERA 2025年3月17日号

