『災害とデマ』(1045円〈税込み〉/インターナショナル新書)NHK退局後のおよそ10年間の取材で訪れた、国内外の自然災害や紛争による被災地で市民と共に発信をしてきた経験を、次の防災につなげるために書き残した。「デマを打ち消し無力化させるためには、事件や災害の現場に足を運び、当事者の話を聞き、発信していくことが重要」

 22年9月に静岡県を襲った台風15号に関連し、静岡県内で住宅が水没したとするフェイク画像が生成AIでつくられSNSで拡散した。堀さんは、この画像を制作した男性に話を聞いた。すると、男性は情報を川上でコントロールする「万能感」のようなものを持っていたと言う。

「しかしデマが広がった結果、本当の被害が知られにくくなり、支援やケアが必要な人に届かなくなります」

 およそ100年前の1923年に起きた関東大震災では、デマによって多くの人が殺されたとも指摘する。

 大切にしているのが、「大きな主語より小さな主語」。「国は」「日本は」「男は」「女は」。そうした規模感の大きな主語は、便利だがデマが起き、分断を生じさせることにもなる。重要なのは、一人一人の固有名詞で伝える小さな主語。事件や災害の現場に足を運び、当事者の話を聞き、「◯◯県◯◯町で商店を営んでいた◯◯さん」とここまで落とし込んで発信することがデマを打ち消す力になる、という。

 市民メディアを立ち上げて十余年。20代、30代の後輩も育ってきた。

「僕なんかよりもデジタル機器に詳しくて」と笑う。

 それでも愛用のカメラを手に現場に向かう。「本当のSOS」を埋もれさせないために、「声なき声」を聞くために。

(編集部・野村昌二)

AERA 2025年3月17日号

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