1歳半の子グマ。体長約80センチ。大型車両が行きかう県道沿いにすみ着いた。2020年8月、秋田県鹿角市で撮影=米田一彦さん提供

 通常、メスグマは越冬中の2月に出産し、子グマは二冬を母グマと過ごしてから独り立ちする。

「その前に母グマが『駆除』されると、子グマは森での生活を十分に学ばずに成長し、人里近くにすみ着くのではないか」と米田さんは言う。

 環境省によると、23年度、クマによる人身被害は統計のある06年度以降最多の219人(うち6人死亡)だった。同年度に捕殺されたクマは、全国で9099頭に上り、前年度の3755頭を大幅に上回った。

 ハンターの心情的に、母グマだけを撃ち、子グマは逃がす場合がある。母グマだけがわなにかかり、子グマは逃げてしまうこともある。

「1年前の冬、東北各地で『50センチグマ』が目撃されました。それが今、80センチ前後に成長して、冬の間も断続的に活動し、目撃数を底上げしていると考えます」

 このうち、オスグマは今年、交尾が可能な年齢になるので、メスを求めて活動が活発化することが予想される。

「市街地でクマとの遭遇事故が増えるのではと心配しています」

好奇心旺盛な2歳半の子グマ。体長約1メートル。今年はこのサイズのクマが多く出没すると予想される。2020年9月、秋田県鹿角市で撮影=米田一彦さん提供

法改正によるプレッシャー

 今年2月21日、鳥獣保護管理法の改正案が閣議決定された。住民の安全が確保できるなど条件を満たしていれば、市町村長の判断でハンターが人口密集地に現れたクマに対して猟銃を発砲できるようになる。

 この決定を歓迎する自治体は少なくないが、クマが市街地に現れたら、自治体やハンターはこれまで以上に難しい判断を迫られるのではないか。

「住民は『クマを射殺してくれ』と言うでしょう。けれども、ハンターにしてみれば、これまで原則禁止されてきた市街地での発砲は恐ろしいわけです」

 たとえば、猟銃の弾は威力が強く、コンクリートなどに当たると跳ね返る、「跳弾」が発生する。そうした訓練はまだこれからだ。

「なのに、市街地にクマは出てくる。出没が増える秋は本当に心配です」

 今月下旬から、冬眠明けのクマの活動が本格的に始まるとみられる。環境省は秋までに改正法に沿って市町村の体制が整うよう、準備を進めるとしているが、うまくいくのか。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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