
島根県の海岸部では、穴ではなく、くぼ地の笹やぶなどで冬眠するクマが珍しくないという。
「母グマは添い寝をするように子グマを育てます。寒い日は寝て、暖かい日は動く」(同)
つまり、「冬眠」といっても、春の訪れまでぐっすりと眠り続けるわけではない。
冬に出没するクマは俗に「穴持たず」と呼ばれる。特に、秋にえさが豊富で栄養状態がよくなると、穴に入らず、冬の間も断続的に活動しやすくなる。この「富栄養の穴持たず」のクマの増加が、この冬、目撃数が増えた一因ではないかと、米田さんは推測する。
商品を食べた形跡なし
たとえば、昨年11月30日、秋田市のスーパーに侵入して2日後に捕獲されたクマは体長約1メートル、体重約70キロ。
「通常なら45キロくらいなので、びっくりするほど太っていた」(同)
当時、「精肉コーナーが荒らされた」と報道されたが、記者が同市農地森林整備課に確認したところ、「商品を食べた形跡はなかった」という。
米田さんは、こう語る。
「私は50年あまり冬山を歩いてきましたが、クマが雪の下のドングリを掘って食べた痕跡を見たことはありません。冬場は食欲が著しく減退するので、クマが食べ物を求めてさまよい歩くことはないと考えます」
今年2月2日、青森県十和田市の集落の近くにクマが出没し、駆除されたときも作物の被害は確認されなかった。このクマを解剖したところ、「胃の中は空だった」(同市農林畜産課)。

森を知らない「孤児グマ」
目撃数が増えた理由として、「富栄養の穴持たずグマ」以外に、もう一つ別の理由があると、米田さんは推測する。それは「都市型・集落依存型の孤児グマ」の増加だ。
1980年代後半から、冬の間も断続的に活動する子グマの存在が広島県などで確認された。
「人里に出てきた母グマが駆除されると、体長50センチほどの子グマが残される。それが穴に入らず、人家近くの草むらなどで冬を越す。暖かい日は短い距離を移動する」(米田さん、以下同)