
この冬は東北や北陸地方を中心に、クマの出没が相次いだ。通常は冬眠しているはずの時期だが、目撃数が例年の100倍を超える地域もある。春以降、クマとの遭遇が増える前兆なのか。
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まさかクマがこんなところに
「冬にクマが出没しているという情報は耳にしていましたが、『まさか、こんなところにクマが出るわけがない』というのが第一印象でした」
秋田市を貫く交通量の多い国道13号沿いで自動車修理業を営む池田雄紀代表取締役(56)は語る。
昨年12月26日朝、池田さんが出勤すると工場の周囲にパトカー3台が止まっていた。「『クマらしきものが出た』という通報があった」と、警察官は言う。念のため、池田さんは工場の防犯カメラの映像を事務所でチェックした。開いたシャッターから工場内に侵入するクマの姿が画面に映し出された。外に出た様子はなかった。
「通報は完全に間違いだろうと思っていたので、青ざめました」(池田さん)
秋田市の職員や猟友会のメンバーが駆けつけ、午前10時ごろ工場内に箱わなを設置した。午後8時半ごろ、秋田市から、「無事捕獲しました」と、電話があった。
「うちにクマが来ることはもうないだろうと思いつつも、暗闇で何か音がすると、『クマじゃないか』と、ビクッとする。トラウマになっています」(同)
クマ目撃情報の増加が意味するもの
秋田県自然保護課によると、2年前まで、冬季のクマの目撃数は、「月1件くらい」だった。
ところが、2023年12月は80件、24年1月は16件。24年12月は115件、今年1月は133件に増加している。
秋田県は24年度から、目撃者が情報を投稿する「クマダス」システムを運用しているので、それ以前の数字とは単純に比較できないが、「この期間の目撃が増えていることは間違いない」と、同課の担当者は言う。
本来ならクマは冬眠している時期だが、なぜ出没が相次いでいるのか。

出没の目的はえさではない
長年、クマの生態を研究してきたNPO日本ツキノワグマ研究所の米田(まいた)一彦所長によると、昔から冬季に活動するクマは「一定数いる」という。
通常、クマは冬眠する際、大木にできた洞穴状の穴を利用したり、斜面に穴を掘って、その中にこもる。これまで米田さんは冬眠するクマを秋田県で37例、広島・島根県で32例、直接観察した。
「小型映像カメラが使えなかった時代は、クマがいそうな穴を見つけたら、片っ端から頭を突っ込んで、確認しました。標高の低い、暖かい場所で冬眠するオスグマは覚醒度が比較的高く、すぐに襲ってくる。穴の中で構えたカメラをかじられたこともありました」(米田さん)