2021、22年は2ケタ勝利も規定投球回到達も皆無だったにもかかわらず、高津監督、伊藤智仁投手コーチ(現投手コーディネーター)らの巧みなやりくりでリーグ連覇を達成したが、これはどちらかといえば特殊なケースと言っていい。やはり上位進出、優勝を狙う上では「エース」と呼ばれる投手の存在は欠かせない。
昨年、セ・リーグを制した巨人では防御率1.67の菅野智之(現オリオールズ)がQS(クオリティスタート)率75.0%と高い確率で先発の役割を果たし、15勝(リーグ1位)3敗と1人で12の貯金をつくってMVPに輝いた。パ・リーグ王者のソフトバンクはサウスポーのリバン・モイネロが防御率1.88(リーグ1位)、QS率84.0%で11勝5敗、有原航平は防御率2.36、QS率80.8%で14勝(リーグ1位)7敗と、左右のエースコンビで貯金13を生み出している。
翻って昨年のヤクルトはというと、2023年は10勝を挙げた小川泰弘が上半身のコンディション不良で出遅れたこともあり、12試合の登板で2勝5敗、防御率4.65。この小川を含め2ケタ勝利も規定投球回到達もゼロ、貯金を2つ以上つくった先発もおらず、まさに「エース」不在の状態だった。
だが、その中でシーズン終盤にグングン調子を上げ、チームの先発陣で勝ち頭になった投手がいる。社会人の東芝からドラフト1位で入団して当時2年目、今年で3年目を迎える吉村貢司郎(27歳)だ。
投球の際に左足を振り子のように大きく振ってモーションに入る「振り子投法」が特徴の吉村は、ヤクルトのドラ1ルーキーでは2016年の原樹理以来、7年ぶりに開幕ローテーション入りするなど、1年目から12試合に登板して4勝(2敗)をマーク。2年目の2024年も開幕からローテーションに入って6月末まで5勝4敗、防御率2.63の好成績で、初のオールスターにも選ばれた。
ところがその後は4連敗。「いろいろと変化を恐れずに、いろいろと試して」とトレードマークの「振り子」を封印し、9月4日の巨人戦(京セラドーム)ではプロ初完封勝利を記録する。そこからシーズン終了まで5試合に先発して、うちQS4試合、4勝0敗、防御率1.04という抜群の安定感で9、10月の月間MVPを受賞した。