「書痴」たる二人と建築家の三井氏がこの企画に対しどのように向かい、試行錯誤を重ね、使いこなしているのか。丹念に書かれた内容はプロジェクト・マネジメントのレポートとして、本好きのみならず建築ファンにとっても貴重なものだ。特に、九州大学で長く使われてきた大小33台の歴史的な書架と閲覧室の大テーブルなどが廃棄寸前となり、レスキュー活動が行われていることを知った橋本さんが「在野保存」という形で引き受けた話は感動的だ。
ちなみに図書館長は橋本さん、司書長が山本さんである。というのは、橋本さんがしばしば伴侶に「あんな本はない?」と訊ねるからだ。「ちょっと待ってて」と「専属司書」(山本さん)が本を探し出す。
「買ってきた本はできるだけ彼女に見せているのに、それを忘れてよく買ってくるんですよ。『あるよって言ったじゃない!』って」(山本さん)
「毎日あんなに大量の本を見せられていたら、いちいち覚えてなんかいられないじゃないですか」(橋本さん)
同じ本について語り合うことで頭が整理されていくというのも二人の日常である。この本は“森の図書館”をめぐる「幸福の物語」なのだ。
(ライター・千葉望)
※AERA 2025年3月3日号
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