「裏金問題」は流行語大賞のトップテンに入った。記念品の盾を開いてポーズをとる。この瞬間も、どこかで裏金がつくられている……(写真/MIKIKO)

『生きる意味』をきっかけに 哲学の本を濫読する

 一本、一本、雨だれが石を穿(うが)つように記された告発状は200本に近づき、保守政権の岩盤を割った。なぜ、それほど「政治とカネ」の問題に心血を注ぐのか。上脇は答える。

「日本は国民主権の国です。政府は、政治や行政について国民に説明する義務があり、国民には政府の情報を『知る権利』がある。政治家が裏金をつくり、嘘をつけば、知る権利が侵され、国民主権が揺らぎます。カネを出した一部の企業や業界団体のための政治は、民主主義を歪(ゆが)め、多数の国民に不利益を与えます。僕は告発を通して民主主義を実現させたいんです」

 上脇は、1958年、鹿児島県姶良郡隼人町(現・霧島市隼人町)の会社員家庭の3人兄弟の次男に生まれた。九州電力に勤める父は酒が好きな人だった。上脇少年は足が速く、鹿児島県立加治木高校ではハンドボール部で活躍した。

 高校を卒業した春、母が高血圧で体調を崩して寝込んだ。ちょうどそのころ、母の妹(叔母)が高血圧性疾患で逝った。上脇は自宅で母の代わりに家事をしながら浪人生活に入る。料理の腕が上がる半面、受験勉強ははかどらなかった。大学や予備校に通う友だちが、「おい。マージャンやろう」と家に上がり込むのだ。

 タバコの煙が濛々(もうもう)と充満する部屋で、このままじゃいけないと上脇は焦りつつ、マージャンに明け暮れる。気合を込めて額に鉢巻のようなバンダナを付けるが、1浪、2浪、3浪に突入した。

 ある日、大学生の友人に「これを読んで、おれの代わりに感想文を書いてくれ」と頼まれ、一冊の本を渡された。作家の椎名麟三の『生きる意味』であった。人生の転機が訪れる。

(文中敬称略)(文・山岡淳一郎)

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