たたかう憲法学者。民主主義を壊す「政治とカネ」などを告発して四半世紀、告発状は約200本に(写真/MIKIKO)
この記事の写真をすべて見る

 神戸学院大学法学部教授、上脇博之。2000年に「政治とカネ」で議員を告発してから、上脇博之がこれまでに送った告発状は200本ほどになる。コツコツと地道な告発は、「安倍一強」だった自民党政権を揺るがした。昨年は「裏金問題」が流行語大賞も受賞。政府は政治や行政について説明する義務がある。嘘をつくことは許されない。告発は、私たちの「知る権利」の行使である。

【写真】この記事の写真をもっと見る

*  *  *

 2024年12月半ばの朝、神戸学院大学法学部の教室で、黒いスーツに紺のネクタイを締め、グレーのバンダナを頭に巻いた上脇博之(かみわきひろし・66)に会った。上脇は「これが届きました。何でしょうね」と手にした梱包を、私の目の前で開けた。

 黒い二つ折りの盾(たて)が出てきた。

 盾の片側に〈2024ユーキャン新語・流行語大賞 受賞語 裏金問題〉と書いた表彰状が、もう一方に時計がはめ込まれていた。「政治とカネ」をめぐる地道な告発で、ときの流れを変えた上脇にふさわしい品だった。上脇が盾を眺めて呟(つぶや)く。

「物価が高騰して、国民は生活が苦しい。学生はアルバイトをしなくちゃ大学に通えない。そんな状況でパーティーを開いて、企業からカネを集めて裏金をこしらえた政治家たちが起訴もされず、議席に留まっている。それに怒っている大勢の人の代表で、この賞をいただいたと思っています」

神戸学院大学法学部で2年生を対象に講義をする。『新・どうなっている!? 日本国憲法─憲法と社会を考える 第3版』(法律文化社)をテキストにして、学生がまとめたレポートに解説やコメントをつける(写真/MIKIKO)

 裏金問題は、22年11月、しんぶん赤旗の自民党5派閥の政治資金収支報告書へのパーティー収入の不記載を報じるスクープに上脇が「(これは)氷山の一角」とコメントして火がついた。上脇は派閥と年度ごとに計20本以上の告発状を出す。東京地検特捜部は、派閥の事務所を捜索した。時効にかからない過去5年分の収入だけでも、安倍派は約6億7500万円、二階派が約2億6400万円、岸田派も約3千万円の不記載が見つかる。

 だが、起訴された国会議員はわずか4人……国民は怒りをためた。24年10月27日に行われた衆議院総選挙で与党は過半数割れに追い込まれる。裏金問題はパーティー券を買う企業側にも波及する。総選挙で自民党が惨敗した3日後、上脇は、会社の経営者が集まる経済同友会に招かれ、オンラインで講演をした。

次のページ
告発は憲法研究者として 大学とは一線を画す