漫画「銀河鉄道999」では、主人公が長い宇宙の旅の末にようやく機械の体に入れ替わる権利を手にします。しかし、その機械の体とは一本のネジであることが判明し、彼はネジとなって帝国の建物を支えるという残酷な現実を突きつけられるのです。

 おかしな話かもしれませんが、私は理三に対して同じようなイメージを抱いていました。長い受験競争の末に勝ち取ったもの──それは東大教授になるための切符でした。しかし教授になるためには、受験競争よりもさらに熾烈で長い道のりを歩み続けなければいけません。その上、誰もが教授になれるわけでもありません。そして医局という「帝国」の中の歯車となり、働き続けなければいけないのです。

 もっとも、卒業して周りを見渡してみれば、私の同級生たちは医局の中で楽しく生きています。……しかし当時は、そのように思い込んでいたのです。

 現在、研修医の間では「直美(ちょくび)」と言って、研修を終えると直接美容外科に行くのがはやっているそうです。彼らも一方的に決められた将来の進路から逃れたいのだろうなと思うことがあります。それは「レール」という一次元からの脱出でもあるからです。ただし、並列したレールは自分自身で見つけたものではなく、他の誰かが用意したレールであることも事実です。その先には、やはり厳しい現実が待っている気もします。

 ――東大理三あるいは医学部をめざす受験生にメッセージをお願いします。

 「理解」する時のすっきりした感覚を大事にしてください。先述のように、それは多くの場合、一次元的なアルゴリズムから、より上位の次元に上がる時に舞い降りる感覚だからです。たとえば上で挙げた①繰り返し処理、②順次処理に徹する勉強というのは単純で楽かもしれません。しかしそういう勉強は何時間重ねても成績が伸びないものです。

 だから③の場合分けに注目した勉強を心がけてください。場合分けの思考とは要するにレールの上から脱出する思考でもあります。それを当然のように行える人間が、過去に新しい道を切り開いた偉人たちです。しかし私のような凡人でも、この世界で生きる上で大事な羅針盤となったのが先述の「論理は一次元的……」の文言です。この小説は受験勉強やその先の人生で、レールの上にとどまらない生き方のヒントになると思います。

――ありがとうございました。

 (構成/教育ジャーナリスト・小林哲夫

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