重度の障害のある長女は、育休期間が終わっても預け先がなく復職できませんでした。いまは特別支援学校と放課後等デイサービスなど居場所がありますが、卒業後の行き先は見つかっていません(撮影/加藤夏子)
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「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 1月31日の朝日新聞朝刊に、12月に厚生労働省で「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」が行った記者会見に関連した記事として、我が家のケースが掲載されました。

 この特集は「18歳の壁」と言われる特別支援学校を卒業後の居場所や保護者の就労がテーマで、取材では医療的ケア児の長女の現状についてお話ししました。

 この記事に先立ち、朝日新聞では1月20~24日の夕刊に「終わりなき育児に希望を」というタイトルで有職者のママたちの連載が掲載されました。育児休業が終了しても保育園の預け先が見つからずに困惑したママや、「障がいのある子を産んだ母親はみんな仕事を辞める」と聞いて、そんなことがあっていいはずがないと思い、当事者団体を立ち上げて行政と交渉したママなど、母親が働くために不可欠な「子どもの預け先」や預かり時間内に送迎するために「時短勤務」にどう立ち向かったのかなどが細かく書かれていました。文中の「(国や企業の両立支援制度は)子どもは年齢とともに手がかからなくなるという前提」「『18歳まで』よりずっと長い『18歳から』の人生を家族だけに背負わせるのでなく、社会で考える仕組みを」という言葉はひとごとではなくとても響きました。

 障害のある子どもとの暮らしは、どの家庭にも起こり得ます。妊娠が判明した時点で、子どもに障害があるために働けなくなると想像できるケースがどのくらいあるでしょうか?

 今回は、障害のある子どもを育てる保護者の就労について書いてみようと思います。

母子だけの世界にこもるより

 私が昨夏に医療的ケア児を育てる保護者を対象にGoogleフォームを使って行った研究でも、「現在の生活の中で困っていること」という質問(複数回答可)に対し、57.6%の方が「就労・復職」にチェックをしていました。さらにこの回答は、「経済的な問題」と答えた方が36.5%いたことにも深く関わっていると思われます。近年の物価上昇などから家計への負担が増えているにもかかわらず、就職や復職を希望しても環境が整わずに苦労している状況がうかがえました。共働き家庭が70%を超える日本で、この状況はフェアではないように思います。

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母親もひとりの「人」であり続けるために