
「作中では表していませんがそのつもりで書いています。私自身はレズビアンですが、自分の中でそれが本当に腑に落ちたのは30歳を過ぎてから。周囲を見ても『自分がなんなのか』がわかりにくく自分に納得がいくまで時間がかかるセクシュアルマイノリティーの人に多い。大夢の説明できない違和感や揺れはそこにあるのかなと」
少数派の視点からしか見えないものを書くことが自分の仕事のひとつかも、と王谷さん。アーティスト肌の両親のもとで育ち、幼いころから「いつか作家に“なっちゃうんだろうな”」との予感があった。消費者金融のコールセンターで借金勧誘の電話をかけたバイト時代の苦い思い出も、20代でうつ病を発症した経験もすべて創作の糧となった。
「いま非正規で働く人たちは10年前の自分よりもっと条件が悪くなっていると思う。給料は上がらないのにコンビニの梅おにぎりが120円を超えるなんて異常事態です。社会をもうちょっとなんとかしようよ、という思いと同時に、こんな社会でもこういうふうに生きていくこともできる、最初から脇道をゆくような人生でもとりあえず生きてはいけるよ、という希望をみせたいとの思いもあるんです」
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2025年2月10日号