北海道美瑛町の観光スポット「クリスマスツリーの木」に押し寄せる観光客=2023年
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 なだらかな丘陵に広がる田園風景が魅力の北海道美瑛町には大勢の観光客が訪れる。ところが1月中旬、人気の「映えスポット」だったシラカバ並木が伐採された。何があったのか。

【写真】もう見られない美瑛のシラカバ並木…押し寄せるインバウンド客

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美瑛のシラカバ並木が消えた


 雄大な雪原に立ち並ぶシラカバ並木は、北海道を代表する観光地、美瑛町を象徴する景色のひとつだった。1月14日、この景色は突然消えた。土地の所有者である農家が、シラカバ並木を伐採したのだ。

SNSでは嘆きのコメントが相次いだ。

<貴重な観光資源がもったいない>

<伐採の決断の前に何か他に方法はなかったのか>

<観光で潤う道を探す努力を自治体主導ですべきだった>


「ここ数年、シラカバ並木周辺の農家のストレスは限界まできていました」

 そう語るのは、美瑛町観光協会理事の写真家・中西敏貴さんだ。

 畑の道に沿った約150メートルのシラカバ並木を所有する農家は数年前から、「もう切るしかない」と話していたという。

 美瑛町の人口は約9300人。景観の美しさは海外の観光客にも人気があり、年間約240万人(2023年度)の観光客が国内外から押し寄せる。

1日中やってくるツアーバス

「一日中、ツアーバスがやってくる。畑の周辺が観光客で埋め尽くされるので、落ち着いて農作業ができない」(中西さん)
 観光客やバスがトラクターの通行の邪魔になるだけでなく、接触事故の懸念もあった。畑の中に入り込んで写真を撮る観光客もいた。畑が荒らされるうえ、作物に有害な病原菌が持ち込まれるリスクもあった。

 観光協会が実施する「観光パトロール」の職員はもちろん、中西さんも迷惑行為を見つけると注意してきた。人数が多いため、インバウンド客の迷惑行為が目立つが、悪質なケースは日本人も多いという。

「俺は昔からここで写真を撮ってきた」「土地の所有者じゃないお前らに注意される筋合いはない」と、逆ギレするのだ。

「それが一日に何十回と繰り返される。毎日、嫌な気持ちになりますよ」(同)

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