月光に照らされた美瑛町のシラカバ並木。この風景はもうない=中西敏貴さん提供

10年ほど前から観光客が爆発的に増加

 美瑛町を訪れる観光客が増え始めたのは30年ほど前、テレビドラマ「北の国から」の影響も大きかったと思われる。「観光客が喜んでくれるなら」と、シラカバ並木の景観をつくるために、農家(以前の土地所有者)が道路に沿って約40本の苗木を植えたのもそのころだった。

 10年ほど前から観光客が爆発的に増加し、「オーバーツーリズム」が表面化した。

 2016年には、それを象徴する「事件」が起きた。人気スポットのポプラの大木「哲学の木」が、やはり所有者の農家によって伐採されたのだ。観光客の迷惑行為に悩んだ末の決断だった。

「哲学の木を切った農家の若者は、『アクションを起こさなければ、観光客はこの問題に気づかない。何も変わらない』と言っていました。それ以降、町全体で観光客のマナー問題への取り組みが加速しました」(同)

「伐採やむなし」と結論

 コロナ禍でマナー問題は一時沈静化したが、明けた直後からシラカバ並木を訪れるインバウンド客が一気に増えた。「外国人アーティストの撮影がここで行われた」という話を観光客から聞いたことがあるが、はっきりした増加の理由はわからない。

「とにかく、彼らはシラカバ並木を背景に写真を撮りたがる。観光協会は、農地への立ち入りを禁止する看板を設置し、警備員も配置するなど様々な対策を行ってきましたが、対策を上回る速度で外国人観光客が増えた」(同)

 迷惑行為について地域で話し合いが行われたが、「伐採やむなし」の結論にいたった。町の了解も得たうえで、伐採が実施された。

 農家は観光客を拒否しているわけではなく、「マナーを守って楽しんでもらえたらいい」という人が多いという。

「伐採について、『哲学の木と同じことを繰り返している』『行政の怠慢じゃないか』といったコメントもありました。行政はやれることを精いっぱいやってきたと思います。この木を楽しみにやってくる観光客が大勢いることを承知のうえでの決断です。農家や周辺住民、行政はいかに苦悩してきたか……」(同)

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「マナー違反」「迷惑行為」