神戸・モトコ―の「MR.BOND」の3代目オーナーの岡幸雄さんが手にしているのはバブアーのコート「ドライフライ」。同店では手袋、バッグ、バブアーチェックのマフラーも取り扱っている(岡さん提供)
この記事の写真をすべて見る

 英国ブランド「バブアー(Barbour)」のアウターが人気を集めている。40年来、このアイテムに愛着を深めてきたファンがトレンドの背景に迫った。

【写真】2000年代、バブアーのコートを着た30代の筆者

*  *  *

 いきなり、「バブアー」と言っても知る人は限られるかもしれない。しかし、コーデュロイの襟(えり)と裏地のチェック柄が特徴のワックスコットン生地のアウターウェアと言えば、ピンと来る人も少なくないはずだ。最近は着ている人を街角でよく見かける。その都度驚くのは、世代が若く、女性が着ているのも珍しくないこと。巷ではバブアー好きの女性を指し、「バブアー女子」という言葉もあるそうだ。

 先日、代官山(東京都渋谷区)の旗艦店の前を通ると、店内は若者でごった返していた。コロナ禍の頃まで神宮前(同)にあった旗艦店を何度か訪ねたことがあるが、気のせいか年齢層も混み具合もまるで違う。さらに感慨を深くしたのは、NHKで放送中のドラマ「東京サラダボウル」で奈緒さん演じる主人公の女性刑事がバブアーのジャケットを着ているシーンに遭遇したことによる。しかも良く似合っていた。「ここまで来たかあ」と唸った。

 バブアーのコートと言えば、ひと昔前までコーティングのワックスが匂うし、重たいしで、男性でも着る人は限られていた。かくいう50代の筆者がバブアーのコートを初めて買ったのは高校生のとき。当時よく通っていた洋品店のオーナーに、「このコートは歳をとっても着られますよ。長く着続けてください」と言われたのを覚えている。当時はワックスもセットで販売されていて、ワックスが落ちてくると自分で歯ブラシを使ってコーティングし直していた。自宅で作業すると、母親に「いい加減にしなさい」と叱られた記憶がある。それぐらい匂いがきつかった。室内だけでなく、電車やバスに乗る時も周囲の反応を気にしながら恐る恐る、ということが多かった。以来、少なくとも4~5着は買い継いできたが、今はワックスの匂いやべたつきはほとんど感じられない。丈の短いアイテムを選べるのも幅広い層の人気につながったようだ。

 とはいえ、日本でのバブアー人気はここ数年の出来事のように思われる。転機は何だったのか。

次のページ
ウィメンズの強化を推進