「売るだけが商売じゃないで、と常々じいちゃんや親父から言われていました。服って生活に直結するもの。もっと言えば、命を守るのが服なので」
そのことを阪神・淡路大震災の経験で実感したという。真冬の震災。被災地ではみんな温かい服の大事さ、毛布一枚のありがたさを実感した。当時小学5年生だった岡さんは、神戸市灘区の自宅で被災したが、致命的な家屋の損壊は免れた。その数時間後。岡さんは、何をさしおいても高架下の状況が気になるという父と一緒に店舗に車で向かった。いつもは20分ほどで着く元町まで2時間かかった。商品は棚から落ちていたが、高架下を支える鉄骨の強度に守られ、店舗は無事だった。
「高架の橋脚は大正時代の建築物。当時は蒸気機関車が走っていた時代ですから、かなりの重量に耐えられるんです」(岡さん)
被災者の中には同店でレッドウィングのブーツを購入したお客さんもいた。その男性は震災後に来店し、「全壊した自宅の片づけをする時も、レッドウィングのブーツを履いて作業したおかげで足をケガせんでよかったわ」と話していたという。父親からこの話を聞いた岡さんは子どもながらに「本場ものの本領を発揮した」と、どこか誇らしい気分になったと振り返る。
「バブアーもそうですが、うちが扱っているのはリアルクローズと言われる生活に根ざした実用性のあるものばかりなので、ローテク素材が多いんです。近年アウトドアメーカーもハイテクの生地をよく使うようになっていますが、ローテク素材は構造が単純なぶん、修理もできて長持ちするんですよ。それが、うちが取り扱っている服のいいところやと思います」
熱っぽくそう語る岡さんが、初代や2代目と重なった。
今は服も靴もECサイト経由で買うことが多くなり、実店舗に行く機会はめっきり減った。でも、次にバブアーのコートを買い替える時は「大事に、長く使ってください」という言葉とともに送り出してくれる服屋さんで買おう、と思った。
(編集部・渡辺豪)
※英国ブランド「バブアー(Barbour)」……1894年に創業したイギリスのブランド。コットン生地にワックスを染み込ませて耐水性を高めた防寒用の上着を提供したのが始まり。当初は北海の厳しい環境で働く港湾労働者向けに提供していたが、防水ジャケットとしての耐久性の高さから定評を得て、ハンディングを楽しむ貴族にも愛用されるようになった。
※AERAオンライン限定記事