昨年10月に東京・青山の骨董通りで開催した、バブアー創業130周年を記念したコンセプトストアのイベントでは、オールドファンの心をつかむ取り組みにも尽力した。

 伊藤忠商事は2022年に国内販売権を取得した際のリリースで、「5年後に上代換算(小売店の販売価格)で100億円の売り上げ」を目標に掲げた。今はどうなのか。

「当時は厳しいハードルだと受け止めていましたが、今の計画だと1年前倒しで達成しそうな状況で推移しています」(嶋越さん)

 これはコラボ商品の展開やPR力のアップ、製品力の強化など、バブアーに関わる「オールスタッフの努力の賜物」と嶋越さんは強調した。

 愛着のあるブランドが人気なのは、もちろん嫌な気はしない。だが正直なところ、ブームが過ぎると着づらくなるのでは、という懸念もなくはない。筆者が高校生の時に初めてバブアーのコートを買った、兵庫県神戸市の元町高架下商店街(モトコー)にある「MR.BOND」の3代目オーナーの岡幸雄さん(40)に見解を尋ねてみた。

「MR.BOND」と言えば、主にイギリスとアメリカの輸入品を扱う伝説の洋品店だ。創業は1947年。神戸の居留地で戦前、イギリス商社に勤務していた初代・岡保典さんが、高架下の闇市で商売を始めたのが起源という。イギリス商社が本国に引き上げる際、日本人社員に分配した在庫商品が元手だった。岡さんはこう説明する。

「戦後間もない時期は何でもお金に換えて家族を養っていかなあかんというので、在庫品を売って生活費に充てていたのが、うちのルーツです」

 初代は岡さんの祖父、2代目は父保雄さんだ。筆者が高校生の頃は初代と2代目が店に入っておられたが、2人とも鬼籍に入られた。2020年に3代目に就いた岡さんによると、バブアーの取り扱いを始めたのは1970年代だという。

「親父やじいちゃんから話を聞く限り、バブアーが王室ご用達の証であるロイヤルワラントに最初に認定された1974年の数年後、おそらく79年あたりから取り扱いを始めたようです」

 英国トラッドを扱う同店でバブアーのコートは「唯一無二の存在」だと岡さんは言う。

「アメリカにもワックス生地を使ったアウターはたくさんありますが、イギリスものは仕上がりが上品。中でもバブアーは別格です。いつまでも置いておきたい素晴らしいブランドです」

 バブアーのコートの購入層はほぼ全世代にまたがる。

「つい先日も70代のお客さんに購入いただきましたが、バブアーに関しては世代を問わない感じです。最近は若い人も『あっ、バブアーや』と友人同士で話しておられるのを耳にします」(岡さん)

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伝説の洋品店「MR.BOND」での思い出