写真家の珠かな子さん(写真/インベカヲリ☆)

「私の欲求といえば、漠然と売れたいとか、買ってないけど宝くじには当たりたいとかですよ。ストレートな欲求じゃないですか。叶えられるじゃないですか。彼らは欲求が綺麗じゃなくて、目的がわからないところが怖い」

 もっとも、これは世間に蔓延している雰囲気でもある。

 ネットを開けば、若者が自傷行為や自殺を実況中継していたり、SNSで政治的な発言をした芸能人が叩かれていたり、不可解な事件が起きるたびに陰謀論が囁かれたりしている。人々の鬱屈した感情が洪水のように溢れてくるのが現代だ。

スマホってドラえもん

「なんか死にそうな人がいっぱいいるし、みんな病んでるし、元気がないし、SNSは怖い」

 かな子さんは、そのことに違和感を持っているようだ。

「私は、ギリ昭和生まれの学年なんです。小学校高学年の頃にウィンドウズ98が現れて、『おっせえな』と思いながらネットに接続していた。でも今は、スマホで何でも素早く調べられる。スマホってドラえもんですよね。みんなドラえもんがほしいと思ってたじゃないですか」

 不思議なポッケで願いを叶えてくれる。21世紀も四半世紀になり、結局ドラえもんはいなかったとばかり思っていたが、スマホがドラえもんだと言われれば確かにそうだ。

「行きたい国があったら見られるし、髪の毛をピンクにしたいと思ったらピンクにする方法や、ピンクにできるお店を探せる。私が5歳だったときには考えられへん。ドラえもんと暮らせてハッピーと思ってるのに、これのせいでみんな不幸になってるんですよ」   

 便利なはずのドラえもんを、多くの人が正しく使えずにいるのだろう。

意識がなくなる前に電話をかけてきた友達

 かな子さんが、こうして「幸せ」について考えるのは、写真を始めるきっかけにもなった、ある出来事が関係しているようだった。

「19歳のときに、高校の同級生だった友達がオーバードーズで死んじゃったんです。その子は、意識がなくなる前に、私ともう1人の友達に電話をかけてきたんですね」

 しかし、かな子さんはどうしていいかわからず、すぐには行動に移せなかった。しばらくして、彼女の実家の電話番号を思い出し、母親に電話で伝えると、すぐに発見され救急車が呼ばれたという流れだった。

「胃洗浄もしたけどダメだったみたい。病院で会ったときには脳死の状態で、顔が2倍くらいに膨らんでいました。その子のことは何年経っても悲しいし、真面目に話すと今でも涙が出る」

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曽祖父から始まる家族物語