そう言って涙を拭いた。
かな子さんには、助けられたかもしれない友達を助けられなかったという自責の念があるようだ。
「でも、人を1人死なせてしまって、人を1人産んだというのは、自分の中ではバランスが取れたのかなと思う。作品制作より、そこで救われている部分はあるのかなって」
息子は「俺、毎日幸せや」
話は自己肯定感のことに移った。
「0歳でも1歳でも、誕生日を祝われた記憶って自覚がなくても覚えているらしいんですよ。お祝いされると、ハッピーになってメンタルが安定する。日本ほど裕福じゃない国でも、お祝いのパーティーは激しかったりするじゃないですか。そういう話をテレビで見て、息子の誕生日はめちゃくちゃお祝いするようにしているんです。もうヤバイくらい」
スマホの動画を見せてもらうと、部屋いっぱいに埋め尽くされた風船や、手作りの巨大くす玉を前に、ぴょんぴょん跳びはねている子どもの姿が映っていた。
「息子が『俺、毎日幸せや』みたいなことを言うんですよね。私もそう言われて幸せだから、お父さんがいなくても幸せだろうなって思ってる」
曽祖父と祖父の物語
かな子さんは、最初から未婚で子どもを産んでいる。それは、育った環境とも関係しているようだった。話は、壮大な家族物語へと移った。
「死んだ祖父は、曽祖父から捨てられた人だったんです。曽祖父は詩吟をやっていて、剣道の段を持つスゴい人だったらしいんですが、妻が病気になったら、子どもと一緒に家から追い出すという鬼畜っぷりを発揮したんですね」
話が曽祖父の代までさかのぼることに驚いたが、どうやら父方の「家系の業」は、そこから始まっているらしい。
「で、それを哀れに思った詩吟の師匠が、弟子の尻ぬぐいとして、弟子の妻と子の面倒を見ることになったんです。祖父は、その師匠のお嬢さんと結婚したんですよ」
母と自分の世話をしてくれた師匠の娘と結婚する――。恩返しめいた何かを感じるが、曽祖父の性格は、祖父にもしっかりと受け継がれていたようだ。
※後編へ続く
(構成・ノンフィクション作家 インベカヲリ☆)