■技能に報いる枠組みを

 来年が110周年の節目となる歌劇団は、各時代を象徴する国民的スターを輩出しながら、前世紀までは育成の主眼は「良妻賢母」に置いていた。だが、社会の価値観が変化した今、その焦点は「自立する女性像」に移行している。

 一方で、森脇さんが言うように、在団中のタカラジェンヌは外部と触れる時間がなく、退団後にどうやって自立していけばいいのかという悩みも抱える。その溝を埋めるべく、OGのキャリアパスについても、阪急グループが関わるようになってきたのである。TLN社長の小川友次さんは、次のように語る。

「青春を傾けて、自己研鑽(けんさん)を積んだ彼女たちは、いずれ退団します。その時に、プロフェッショナルな技能に報いる枠組みがあれば、本人だけでなく、エンタメ界にとってもプラスになる」

 小川さんは、宝塚歌劇101周年にあたる15年から6年間、歌劇団理事長を務め、海外ミュージカルの上演や配信事業の拡大で手腕を発揮した。かねてからOGが集結するドリームチーム「夢組」の構想を語っており、その第一歩がTLNともいえる。

 背景にはもう一つ、ネット時代における宝塚ブランドの保護という、今日的な課題もある。

 かつてはOGの活躍というと、テレビや舞台、映画に限られていたが、今は文章、写真、音声、動画と、あらゆるトーンの発信がSNSで可能になっている。中には暴露ブームに乗ったような露出もあり、いかにブランドイメージを守っていくかが悩ましい。その点で、OGの活動に本家がお墨付きを与えることは一つの方策になる。

 場はエンタメ界だけではない。元・月組の娘役、憧花(とうか)ゆりのさん(42)は、19年間の在団後、20年に宝塚ホテル(兵庫県)が移転、新築した時に支配人に就任して話題を集めた。同ホテルは、阪急阪神グループの一つ、阪急阪神ホテルズの運営だ。

【宝塚ホテル支配人】憧花ゆりの(とうか・ゆりの)/2000年から18年まで在団。元・月組娘役、組長。20年、移転開業した宝塚ホテルの支配人に就任。今春、大阪芸術大学通信教育部音楽学科卒業(撮影/写真映像部・高野楓菜)
【宝塚ホテル支配人】憧花ゆりの(とうか・ゆりの)/2000年から18年まで在団。元・月組娘役、組長。20年、移転開業した宝塚ホテルの支配人に就任。今春、大阪芸術大学通信教育部音楽学科卒業(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 憧花さんは現役時代、70人あまりの組メンバーを統率する組長を務めていた。通常の舞台だけでも重労働だが、そこに団員の悩み相談や、劇団との事務連絡、調整などさまざまな仕事が加わる。その重責を担う真摯(しんし)な姿が、グループ内の関係者に伝わり、白羽の矢が立ったのだ。

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