転職が当たり前になり、新卒採用や学歴主義が効力を失いつつある時代。その中で、在学・在団中にメンタルとフィジカル双方を鍛え抜いた宝塚歌劇団OGも、多彩な道を歩んでいた。AERA 2023年4月17日号より紹介する。
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花、月、雪、星、宙(そら)の5組と、ベテランが所属する専科を合わせて総勢400人以上の団員を抱える宝塚歌劇団(以下、歌劇団)。毎年40人前後の新人が入団する一方で、同じ数の団員が卒業していく。その時期に明確な基準があるわけではないが、タカラジェンヌが退団を決める時は、頭の中で鐘が鳴り響くのだそう。元・宙組男役の風馬翔(ふうまかける)さんの場合も、「10年目に、ものすごい勢いで鐘が鳴りました」と“その時”が来た。問題は、退団後の身の振り方だ。
2008年に入団し、場を締めるシブい男役かつダイナミックなダンサーとして活躍した。舞台に立つ以上に、スタッフの仕事にも興味があり、師とあおぐ振付師に憧れ、助手として稽古場を支えた。歌劇団を後にしても、ダンスと振り付けという両方のスキルで舞台に関わり続けたいと思い、沖縄の伝統舞踊エイサーの演舞団体に飛び込んだり、アルゼンチンでタンゴの修業をしたり。そのひたむきさが買われて、OG活用を掲げる「タカラヅカ・ライブ・ネクスト(TLN)」から声がかかり、登録アーティスト8人のうちの一人になった。
■外の社会を知らない
TLNは宝塚歌劇の運営母体の阪急電鉄が「OGが退団した後もさまざまな場で活躍できるよう支援する」ことを目的に、20年に設立した子会社だ。今年5、6月にはBTSの「Butter」の振付制作に参加した男性ダンスグループ「GABMI」と歌劇団OGによるダンスライブ「2STEP」を制作・上演予定で、風馬さんもそこに出演する。
異色の演目をプロデュースするのは、元・雪組男役の森脇由梨さん(31)だ。
10年に入団した森脇さんは、多くのタカラジェンヌと同じく、舞台に没頭する10代、20代を過ごした。ただ「あまりにも宝塚の世界が好き過ぎて」、外の社会を知らない自分のことは気がかりだった。30歳を目前に卒業を決意したタイミングがTLNの設立と重なり、同社から「制作に向いている」と背中を押され、21年に入社した。
当初はメールのCC、BCCも分からなかったが、パソコン教室に通って知識を習得。初のプロデュース作品となる「2STEP」では、企画から出演者の選定、交渉、広報などすべてを担当する。