モプチを目指すバスの車中で、ハミドゥは伏せ目がちに、私に話しかけた。
「ユウイチ、僕のバス代を払いたくなかったのならば、払いたくないと言ってね。アダマの気持ちもわかるから、あの時僕は、黙ってユウイチに二人分のチケット代を支払ってもらったんだ。でも、外国人は自分の分しか払わないってことも、わかっている。今後もし、僕の分を払いたくなければ、払わなくていいのだからね」
互いに気心の知れた仲だと思っていたハミドゥと私の間に、バス代の支払いの一件で、うっすらと壁ができそうになっていた。私は、「日本から着いて間もないため、つい日本での考え方で対応してしまった」「もしハミドゥの分を支払うのが嫌ならば、そもそも支払っていないし、そもそも、ハミドゥが嫌ならば、ともに行動していない」ということを、ゆっくりと話した。ハミドゥの顔が晴れていくのを感じとり、私は胸をなでおろした。
今年のマリ取材では、ハミドゥとは約2週間にわたって寝食をともにしている。その間に発生した宿代や交通費、食事代はすべて、私が支払ってきた。
一方、私は彼が費やしてくれた労力に対して、一切の金を支払っていない。
「ユウイチは、マリ人のために、この国の状況を伝えようとしてくれている。ユウイチは、自分の金を稼ぐために、取材をしているわけではない。だから、金はもらえない」
ハミドゥの本来の仕事は観光ガイドだ。何日もの長期にわたって彼の助けを得ている私は、彼の仕事の対価として、微額ながらも報酬を渡そうとしてきた。しかしハミドゥからは、その申し出を断られている。彼はけっして、私にたかっているわけではない。
2009年から2010年にかけて、南アフリカの首都プレトリアとヨハネスブルクを隈なく案内してくれた、現地在住のジャーナリストであるエルビスと行動をともにしていた際も、同様だった。彼が私に施してくれた好意にかかる費用を求められたことは一度もないが、ともに訪ねたレストランやバーでの支払いは、常に私だった。支払いが私だからといって、エルビスが暴飲暴食をしたようなことは、一度もない。