「とりあえず国債で」と言えば何でも通る
ここでは、社会保障と少子化対策の例だけを挙げたが、この他にも、歳出増案件の行列は延々と続く。政権の枠組みがどうなるかに関わらず、与野党の勢力が伯仲し、来夏の参議院議員選挙を意識せざるを得ない中では、当然歳出増の圧力は高まる。
しかも、日本は世界でも稀に見る「とりあえず国債で」と言えば何でも通ってしまう国だ。こんな国は世界中どこにもない。その証拠に、日本の公的債務の対GDP比率は、250%を超えて世界ダントツの借金大国である。
これまでは、日銀の異次元緩和により、無制限に日銀が国債を買い支えていたので、金利が上がることはなかったが、今や、円安の亢進と継続的インフレで金利を上げざるを得なくなっている。金融政策の正常化と言えば聞こえは良いが、早い話が、国債無制限発行はもうできなくなったということなのだ。
そうなれば、歳出を増やすのであれば、何らかの財源を探さなければならないという当たり前のことが要請される。もちろん、そんなことは与党のみならず、野党も一部を除きよくわかっている。
しかし、それを正直に公約に明示する政党はない。
こんなことを続けていては、日本の財政は破綻するか、インフレによる政府債務の国民への目に見えない転嫁が続くかどちらかということになる。
もちろん、近々確実に襲ってくるはずの大震災や年々被害が大きくなる風水害、あるいはいつ来てもおかしくないパンデミックなどの大きなショックに対応するための財政余力は細ったままだ。
しかし「増税」は今や完全に「タブー」になっている。岸田文雄前首相の「増税メガネ」騒ぎからも分かるとおり、増税という言葉が出た途端、議論の余地なく「悪だ」という話になってしまうので、増税しようという提案はおろか、選択肢の一つとして提示することも難しい。
政権を担う自民党は、本来、財源論を堂々と議論しなければならないはずだが、安倍晋三内閣で2回消費税を上げて以来、菅義偉元首相も岸田前首相も、消費税増税を封印してきた。そして驚くべきことに、石破茂首相まで、当面上げることは考えていないと選挙戦の中で述べている。野党は、立憲民主党以外はみな消費税の減税または廃止まで訴えている。
日本では、増税はタブーであり、とりわけ消費税増税を叫べば「極悪人」であるかのようなレッテルを貼られて終わりだ。
一方で、信じられないことだが、霞が関では、社会保障の財源は消費税の増税でというのが「常識」となっている。所得税や法人税は景気変動の影響を受けやすい。削減することが許されない社会保障費の財源としては、比較的安定している消費税を充てることが適しているとか、消費税は、収入のない高齢者も支払うので、現役世帯に負担が偏る所得税よりも適しているというようなもっともらしいことが言われている。