新たな「タブー」は金融所得課税

 しかし、この「常識」は決して正論とは言えない。社会保障は、国民にとって最も重要なサービスである。税金を払っている最大の理由は、社会保障のためだと言っても良い。そのサービスの財源が足りないなら、どんな税でも良いから充当して欲しいと考えるのが自然だ。防衛費や企業への補助金の財源を何か特定の税に限るという話は聞いたことがない。なぜ、社会保障サービスを維持・拡充するときだけは、消費税に限定して増税の是非が議論されるのだろうか。

 しかも、消費税は、低所得層ほど負担率が上がる逆進性がある。実は、2024年1〜8月期のエンゲル係数(消費に占める食料費の割合/2人以上世帯)は28.0%で、1982年以来の高い水準になった。中でも、年収1000万〜1250万円の世帯のエンゲル係数は25.5%だったのに、年収200万円未満の世帯は33.7%と大きな格差があり、最近の物価高が特に低所得層を直撃していることがわかる。霞が関では、社会保障費の増大に備えて、消費税増税の議論が高級官僚の間で隠密裏に進んでいるという報道があったが、こうした庶民の苦境を知りながら、しかも格差を放置したままそのような議論を進めていることが理解できない。社会保障財源は消費税でという「常識」に囚われているのだろう。

 他方、欧州諸国では非常に高い消費税率を設定している国が多い。高税率で国民は不幸かというと、むしろ北欧諸国のように幸福度ランキングで上位に入る国は20%を超える高い消費税率になっている。高い税金を取られても、社会保障や子育て支援などで十分に還元されるという政府への信頼感があれば、増税はむしろ良いことなのだ。

 日本も、そろそろ消費税が悪という「タブー」は捨てた方が良い。

 ただし、だからと言って、社会保障費の増大に対応するための財源を逆進性の高い消費税に「限定する」ということなら、これには明確に反対すべきだ。消費税に限らず、他の財源も探すべきなのだ。この二つのことを混同してはいけない。

 他の財源と言えば、ここにも「タブー」がある。トヨタへなどの増税だ。

 現在の物価高の原因である円安で大儲けしたトヨタなどを、政府は巨額の補助金などで支援しているが、むしろ、庶民の苦境の原因である円安で何の努力もしないで儲けた棚ぼた利益に超過課税をする方が正義にかなう。原油価格高騰の折には、エネルギー関連の企業も大儲けしていた。そうした企業への課税は、欧州では大企業の反対を押し切って実施されている。トヨタなどへの増税を「タブー」視するのをやめるべきである。

 財源論では、最近また新しいタブーができた。

「金融所得課税」だ。岸田前首相は、就任当初、「新しい資本主義」を掲げ、その一環として、金融所得課税の強化を唱えた。しかし、株価が大幅に下がると、慌ててこれを封印した。

 石破首相も、自民党総裁選前に金融所得課税強化の方針を打ち出したが、総裁選で勝利し、株価が暴落すると「現時点では検討しない」と方向転換した。

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