正恩氏も髪形や衣装などを、建国の祖・金日成主席のイメージと重なるよう腐心してきた。白頭山は、日成氏が抗日パルチザン闘争の拠点としたことから、日成氏からの直系は「白頭の血統」と呼ばれる。前出の川口氏もこう語る。
「北朝鮮は日本の皇室やイギリスの王室を非常によく見ています。娘には、国民に慕われたエリザベス女王のようなイメージを狙っているのではないでしょうか」
■影が薄い与正氏 サポート役徹底
2月8日の軍創建75周年の軍事パレード(閲兵式)では、ジュエ氏は正恩氏の手を握り、レッドカーペットの上を歩いて入場した。貴賓席の椅子は金の装飾が施され、母親の雪主氏が座ったものより立派で大きかった。川口氏が語る。
「2人の一歩後ろを、実質的にナンバー2の趙甬元(チョヨンウォン)・朝鮮労働党組織書記が歩いていたのですが、北朝鮮メディアは趙氏らが『尊敬するお子さまをお連れして』と表現していたので驚きました。ジュエ氏の地位が明らかにナンバー2より上にあることは、朝鮮人民ならば感じたでしょう。閲兵式で『白頭の血統、決死擁護』というスローガンが使われたことも象徴的だったと思います」
さらに、ジュエ氏が後継であることを強く印象づけたものは、「白馬」の登場だ。鈴木氏が解説する。
「軍事パレードでは、父・正恩氏が白頭山を駆け抜けた伝説の名馬と紹介された白馬に続いて、『最も愛するお子さまが最も愛している駿馬』とのナレーション付きで、ジュエ氏の白馬まで登場しました。白馬は最高指導者のシンボルです。まちがいなく後継であることを示唆しているはずです」
気になるのは、正恩氏の補佐役を務めている妹・与正氏の存在だ。閲兵式でも会場後方に立つなど、すっかり影が薄くなった印象だ。
「与正氏は何も遠ざけられているわけではありません。党副部長というノーマルな肩書に就いた以上、いまから『偉大なる与正氏』という演出はできない。そのことは与正氏自身わかっていて、彼女はクレバーで兄を支えるというポジションを逸脱したことは一度もありません」(鈴木氏)
4月15日には、金日成氏の生誕記念日「太陽節」を迎える。4代目となる「女王」伝説のため、新たな仕掛けが用意されているにちがいない。(本誌・亀井洋志)
※週刊朝日 2023年4月21日号