筑波大の大石陽准教授

 ショートスリーパーのほとんどは先天性のものだが、まれに脳梗塞で脳を損傷して躁(そう)病を発症し、短眠になる人もいるという。

「躁病の症状の一つは、眠気が少なくなることです。つまり、睡眠量が少なくても大丈夫になる。ただ、本当に脳のある部分を損傷するとショートスリーパーになるかは、わかっていません。人でそのような研究をするのは難しく、調べられていないのです」
 

なぜ睡眠が必要なのか

 人間は人生の約3分の1を眠って過ごす、と言われる。動物も寝る。

 ところが、なぜ生物に睡眠が必要なのか、まだ明らかになっていないという。

「睡眠中は他の動物に襲われるリスクが高まる。にもかかわらず、眠らずにはいられない。ということは、脳は睡眠中、相当重要なことをしているにちがいない。ところが、頭の中で何が起こるのか、いまだによく分かっていない」

 と大石さんは語る。

 人間の脳は、約800億の神経細胞が複雑なネットワークをつくっている。その機能を調べていくのは、現代でも容易なことではないのだという。
 

 大石准教授らは5年ほど前、睡眠を制御する仕組みを研究する過程で偶然、ショートスリーパーのような「短眠マウス」をつくり出すことができた。脳の神経の一部を壊したところ、睡眠時間が減少したのだ。

 通常のマウスは1日に12時間ほど眠るが、短眠マウスはその半分ほどしか眠らない。そのマウスに異常は出なかったのか。

「非常に元気に生きています。全然眠そうじゃない。病気になりやすくて、寿命が短い、という感じもありません」

 このことは大石准教授を驚かせた。というのも、マウスにとって睡眠は必須で、「睡眠がなくなると死ぬ」というのが定説だったからだ。

「1980年代に『ネズミを眠らないようにすると、どうなるか』、かなり熱心に研究が行われました。すると、2~4週間で死んでしまった。人間も睡眠を削ると健康を害します。ところが、われわれの短眠マウスには特に問題は見られません」
 

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睡眠に重要なのは「質」と「量」