教員の長時間労働が、問題視されて久しい。若者の教員離れの原因にもなっているという(写真:Getty Images)
この記事の写真をすべて見る

 教員の長時間労働が、問題視されて久しい。若者の教員離れの原因にもなっている。日本の教育が衰退する前に何をすべきか識者に聞いた。AERA 2024年9月30日号より。

【小学校教員編】「ワーク・エンゲージメントと負担感の業務マップ」はこちら

*  *  *

 教員の働き方改革に長年携わってきた名古屋大学大学院教育発達科学研究科の内田良教授は、次のように語る。

「以前から長時間労働はあったものの、2000年以降顕著に表れるようになってきました。部活をきっかけに教員の働き方に関心が集まり世論も盛り上がりましたが、なお厳しい現状です」

 改善が進まない理由のひとつが、1971年に制定された「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」だ。時間外勤務や休日勤務の手当を支給しない代わりに、給料の月額4%を「教職調整額」として支払う。制定当時は平均残業時間が月8時間だったことから算出された数字だが、文部科学省の22年度の教員勤務実態調査では、持ち帰り仕事を含めると1カ月の平均残業時間は小学校が約82時間、中学校が約100時間と、厚生労働省の定める「過労死ライン」である月80時間を超えている。明らかに現状にそぐわず、教員を「定額働かせ放題」にしているのが実情だ。

教育実習で危惧を

 授業も探究型学習、小学校には英語が加わり負担は増している。しかし、それ以上に教員を疲弊させているのが、授業以外の雑多な業務だ。図はパーソル総合研究所が「教員の職業生活に関する定量調査」として行ったもの。「ワーク・エンゲイジメント」とは、仕事に対してポジティブな状態をいう。調査結果を見ると、本来の業務である授業やその準備に関しては、前向きに取り組んでいることがわかる。「負担に感じる業務」には、給食費や部活動費の処理や徴収、夜間の見回りなど、教員が担うべき役割か、首を傾げるような項目も並ぶ。

 長時間労働は、教員の志願者減少にも繋がっている。2024年度の公立学校教員採用試験の志願者は全国で約12万8千人、約15万1400人だった20年度に比べて15%減少した。志願者数が減った理由について、各自治体は「教員の長時間労働」をあげている。内田教授の調査によると、志願状況にはジェンダーの差が表れているという。教育実習を体験した3、4年生を対象に調査したところ、「20時を過ぎても学校に残って仕事をした」学生のうち、「教師になりたくないと思うようになった」と答えた割合は、男子学生34.1%に対し、女子学生は57.4%と差が開いた。

次のページ
学校は弱い立場